フェルメールのパレット
リンク切れ、仲間の新しい記事がアップされて、ちょっと更新いたしました。 フェルメール関連記事は「XAI フェルメールはお好き?」からどうぞ(2011年1月29日)
それでは。
ウェルドというハーブ・スパイスの植物。
染色に使われます。ご覧くださいな。フェルメールのカラーです。和名をキバナモクセイソウといいます。
フェルメールパレットとよばれる11(18とも)カラーにはイエロー系統が2カラーあり、その一色が、このウェルドです。
私は、フェルメールもイエローも、特に好きなわけではありませんが、このウェルド、そしてもう一色のフェルメールイエローであるイエローオーカーが、シルクやシルクタフタを染める色調が好きなのです。イエローオーカーは、人類最古の絵具の顔料といわれているように、地球全体を覆っている「黄土」の色。
インディゴ(indigo)と ウェルド(weld)からも作られます。混色の度合いによって、フェルメール・グリーンが生まれます。フェルメールといえば、フェルメール・ブルーは大変有名な色ですが、当時、高価なLAPIS LAZULI(ラピスラズリ)を、ポイントではなく、ドレスなどにもふんだんに使用し、「陰影」に使用したという用い方に特徴があります。
「真珠の耳飾りの少女」では、この2色に艶出し(glaze:上薬)を使用しています。 ターバンの青い部分はインディゴ(群青色の青)にフレークホワイトを用い、 乾燥したあとに、ウルトラマリンの薄く透明な層と艶をかけられたのです。 不透明な青に深さおよび色彩力を加えたということになります。
左から
Genuine Ultramarine Glaze
Yellow Ochre
Indigo and Weld Glaze
オリジナルの色を再現するには、コンピュータ上でニスの色を取り除きます。さて、背景ですが、デジタルで復元すると、深い緑がかった風合いを持つつもりだったのが伺えるそうです。フェルメールは、暗い黒い下塗りの上に、Indigo and Weld Glaze(インディゴとウェルドに上薬)を意図していたのでしょうか。
さて、パールには、ポワンティエという技法を使用していますね。1994年に復元され、口元、虚栄(ヴァニタス)を示すイヤリングも元通りになったのが、真珠の耳飾の少女(青いターバンの少女)です。
Girl with a Pearl Earring (Meisje met de parel) c. 1665-1667
Koninklijk Kabinet van Schilderijen Mauritshuis,The Hague
2011/2/3 いろ 色々 ヴィトンのフェルメール カラー →昨日、TBを頂戴しました。2007年のパリコレ、ヴィトンの「フェルメールへのオマージュ」で、「真珠の耳飾りの少女」のトーンにふさわしいファッション。ありがとうございます。
さて!
黒のバックと思われていた「真珠の耳飾りの少女」は、光の反射を、もう一箇所を後で加えられたイヤリングがオリジナルどおりに、左の口角の近くの小さな反射が蘇りました。
追記 ブログ「ファン・ド・シエクル」さんの記事「フェルメールの没後以降」で、ファン・ライフェン所有していたフェルメール作品で、「古代風の衣装をつけたトローニー」というのが、この青いターバンを巻いた真珠の耳飾の少女のことらしいです。
上記の作品画像は1520年のラファエロの「La Fornarina ラ・フォルナリーナ(若い婦人の肖像、パン屋の娘)」(バルベリーニ美術館蔵)もターバンのように髪を巻いていますね。古くから衣装にたとえられるターバン。この1500年代に実際にあった、親殺しで死刑になるベアトリーチェ・チェンチもターバンを巻いてます。(追記 ここまで)
17世紀の肖像画、レーニの「ベアトリーチェ・チェンチ」などとの関連性なども指摘されているようです。
追記:お間違いの方もいるようなので、↑ リンク先「レーニのベアトリーチェ・チェンチ」はエッチングで、グイド・レーニを模したものです。
こちらの左がレーニ(Guido Reni Portrait of Beatrice Cenci c.1662 Galleria Nazionale d'Arte Antica, Rome)として引用されている作品画像で、右がエリザベッタ・シラーニ (Elisabetta Sirani Portrait of Beatrice Cenci Roma, Galleria Nazionale d'Arte Antica?)といわれている「グイド・レーニに起因する ベアトリーチェ・チェンチ」によく使用されているようです。同じものなんでしょうか?(追記はここまで)
フェルメールの作品は不特定の人物を描いた頭部像でトローニーといわれる所以であるところから、実際にはモデルはいないということになります。レーニ、エリザベッタ・シラーニは、特定の人物を描いた作品で胸部からの肖像画ということになるのでしょうか。
ではグレーズ ( 上 薬 ) の効果は、どのようにあらわれるのでしょうか。KAFKAのもっとも好みではない「Girl with the red hat」から観てみましょう。
追記(2011年1月29日) KEIちゃんの記事を見て、作品の質が高いことを知り、好きになりました。(笑)↓リンク先をKEIちゃんに変更。
「Girl with the red hat」Image Viewer
カラー :vermilion バーミリオン
○マークの部分には、サインが入っていますね。
「I(上)M(下)」と上下に書かれています。
微妙なクロテン・ブラシを使用し、羽毛を表現。
下塗りの上に、上薬 艶やかなバーミリオンの色に変化があります。リップグロスをつけているような艶やかな唇、イヤリングにポワンティエ。
とても中性的な印象を受けています。女装した男性、あるいは舞台俳優だったのではと思うくらい、「性」があいまいに描かれているようです。
さて、上薬の部分ですが、それらは種々様々の色調を作成するために有色の下塗りの上に施されます。バーミリオンでは、褐色された色調になりますが、もっともこの効果が認識されるのが、イエローレイク yellow lake なのです。それは、深い自然な緑を生み出すのです。
「The Milkmaid」 Image Viewer
カラー:Ultramarineウルトラマリン flake white フレークホワイト Yellow lake イエローレイク
Girl with a Pearl Earring 真珠の耳飾の少女

flake white フレーク ホワイト 「The Milkmaid」にも使用されている「フレークホワイト」は、鉛白、シルバー ホワイトと呼ばれています。ホワイトの中でも最も乾燥時間の短いホワイトです。完全な不透明で優れた固着力を持っていますが、数年後にわずかに透明性を増す性質があるため、下に塗られた色が透けて見え始めることがあります。
ウルトラマリンブルーやバーミリオンの絵の具と反応して黒変します。真珠の耳飾りの少女のイヤリングに瞳。秘密はフレークホワイトです。
ご覧ください。
あのウルトラマリンブルーとフレークホワイトの状態が左です。直接黄色と青を混合(Indigo and Weld Glaze 先のカラーの画像を参照してください。)することにより得ることができたよりも、もっと光輝 く緑を作成するために特にこの上薬をとてもしばしば使用したように見えます。
この時代、すでにプロテスタントもオランダの歴史に登場しているのですが、Image Viewerからもご覧いただけたように、ミルクとパンが描かれています。つまり、カトリックの宗教画を示しているようでもあります。カトリックの聖職者はワインとパン、一般市民はワインを用いてのミサは許されません。そういう意味で、市民のカトリックの一場面を示している気がいたします。
右が上薬をかけた状態です。光のグラデーションによる陰影は、ポワンティエだけではなく、こうした絵具からも読み取ることができそうです。
ポワンティエは、もともと15世紀に、金属や火器の装飾、製本にも用いられてきました。グレースも、1370年にネーデルラントに生まれたファン・エイク兄弟によって、線描的な描き方から、平塗りやぼかしから光と面を強調することができるようになったのです。それをさらに進化させて、特徴つけたのが、フェルメールです。
こちらは、「The Milkmaid」(ミルクを注ぐ女)のディティールです。
この画像をクリックしてご覧ください。真鍮の輝きと籠の対比ですが、いかにポワンティエの技法を駆使いているかがおわかりいただけます。大小を微妙に変えながら無数の光の点を打っているのです。この「光の点綴画法」は、無視されていた技法なのですが、フェルメールが使用したことにより、レオナルド・ダ・ヴィンチのキアロスクーロを一変しました。(もちろん、フェルメールもキアロスクーロで仕上げています。「Woman in Blue reading a Letter (←追記:”窓辺で手紙を読む女 「alei のフェルメールはお好き?」へ”から→「Image Viewer」)からも覗えます。
よく解説されているのが、 「The Milkmaid」(ミルクを注ぐ女)」のミルクを注ぐ元にある籠のなかのパン、「Girl with a Red Hat(赤い帽子の女)」の口元、椅子の装飾部分(リンク先消滅・・・)です。
Vermeer colour
| AZURITE CARMINE CHARCOAL BLACK GREEN EARTH INDIGO IVORY BLACK LEAD-TIN YELLOW MADDER LAKE |
RED OCHER SMALT NATURAL ULTRAMARINE UMBER WHITE LEAD VERDIGRIS VERMILION WELD YELLOW OCHER |
※↑テキストのカラーは必ずしも絵画の色調と一致しません。
アズライトは、軽い灰色がかった緑です。小路では、子供達のベンチの上にある扉の色。眠る女では、薄い灰色として、壁や柱の陰影に使われているようです。
カルミンは、ラブレターのみで検出されています。
チャコールブラックは、より深い影の自然な黒を使用し、ウルトラマリンの色彩強度を弱めます。
グリーンアースは、「赤い帽子の女」、「ギターをひく女」、「バージナルの前に立つ女」、「バージナルの前に座る女」などに使用されています。深い影や人物の細部に使用しています。
インディゴは、本文で紹介した「真珠の耳飾りの少女」のほか、「マルタとマリアの家のキリスト」で、キリストの深く青いローブに使用されています。
アイボリーブラック は、「音楽のレッスン」(Image Viewer)の黒い大理石のタイルで検出されています。
リード・タン・イエローは、フェルメールのウルトラマリンブルーが「パレットの王」とするなら、こちらは「パレットの女王」でしょう。緑がかったハイライト、また、淡いブルーのハイライトに用いてアクセントを置くことにより、風合いや素材感を演出します。
マダーレイクは、「赤い帽子の女」では赤い羽毛、「ワインを持つ女」では、サテンのガウンドレス。「真珠の耳飾りの少女」では唇や頬にも使用。フレークスノー、イエローオーカーなどと混色や重ねに使用されています。
レッドオーカーは、「小路」の雲のふちどり、、「ワインを持つ女」、「ミルクを注ぐ女」では、床のタイルなどにも用いています。 セラミックタイルの透明感は、薄い赤茶色の艶出し(多分アンバーかレッドオーカー)として加えられました。
スマルトは、オーカーやアズライトとともに、「眠る女」(Image Viewer)の壁の細部、カーペットの青の下塗りに用いられています。
アンバーは、暖かい薄い灰色を作成するために白と混合され、自然な壁や床を演出によくみられる色です。
フランス人のミッシェル・アルベールヴァネル氏(Michel Albert-Vanel)は、1983年に設計した"Planetary" colour-system (プラネタリー・カラーシステム)から、フェルメールのカラーを、解析しています。エーヴァル・エランの4つの(心理学)原色を表わす、回転する惑星ですが、黄色(jauneのJ)、赤(rougeのR)、緑(vertのV)および青(bleuのB)があり、第2カラーは月の周囲を回ることにより表わされます。その図はこちらから。
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コメント
うーーーん・・・・・・・・・・・・・・しばし沈黙
まあよく調べられましたねえ。
興味深い内容です。
ものぐさな私が絶対調べるはずのない事ばかりで、いろいろと教えられました。
ありがとうございます。
しばらく目にしていなかったミルクを注ぐ女の画像を見て思い出しました。空気とミルクの質感について。
空気と液体という形のないものを描くことに、フェルメールがどれほどこだわったのかを見て取れますね。ホントに大好きな絵です。
フェルメールの絵は贋作の多さでも有名ですが、本物の折り紙つきのものでもこれは怪しいなと私が思っているものがいくつかあります。
じつは、ここでとりあげられている赤い帽子をかぶった婦人の絵も、私あやしいと思っているんです。
根拠は・・・・・・・・・・・ありません。
本物としている根拠はちゃんとあるんでしょうから、私の方が、分は悪いんですけど。
でも勘で、フェルメールらしくないと思うんですよ。
投稿: とーし | 2006年9月26日 (火) 18時20分
とーしさん、こんばんわ。
実は教材なんです、これ。色彩やデザイン概論にあるんです。ちなみに、参考サイトなどもあるんですが、試験用(テスト)に作成された問題です。(笑)
>空気と液体という形のないものを描くことに、フェルメールがどれほどこだわったのかを見て取れますね。
空気と液体という見方があるんですね。理科、科学の実験を思い出しました。フェルメールは、絵画に数学・科学的なものを取り入れていた気がします。
絵からも実験性を感じます。空気と液体という形のないものを描くことが、フェルメールですね。
たとえばテーブルや椅子などは、本来の形とかけはなれた形に変えられて描かれていますが、これも、空気と液体という形のないものを描くという、フェルメールの哲学なのでしょうか。落ち着いたかんじを、逆に受けます。
>赤い帽子をかぶった婦人
わたしね、贋作でも好きなものってあるんですよ。でも、この女性は、なんかピンとこない。椅子がスペインで有名な「ライオンチェアー」で、スペイン人をイメージしたのかな。よく描かれているオランダ特有の顔立ちとちょっと違うような。とってもトランスジェンダーを感じて、中性的にみえます。その不釣合いさがピンとこないのでしょうか・・・。
投稿: KAFKA | 2006年9月26日 (火) 21時41分
贋作のこと、その後考えました。
改めて考えてみると私がフェルメールに見ている美というものは、穏やかさ、静けさ、落ち着きといったものの中にあるんです。
そこでは登場人物は感情をあらわにしておらずほとんど無表情である、動きはごく少なく静止的である。
こうしたものの美を描こうとしたというのが、私のフェルメールに対する見解なんです。
そうした中で、今挙げた事柄を裏切る絵が何点かフェルメール作として存在しているんですね。
これはどうか、と思ってしまうのはそうした絵です。
投稿: とーし | 2006年9月28日 (木) 20時10分
穏やかさ、静けさ、落ち着きを裏切るものですか。
たとえば、「地理学者」は、動きがあり、躍動的だというような解釈があります。(これも贋作の噂ありますね)
「ミルクを注ぐ女」は、ミルクという液体が流れている動きがあるのに、静寂さを与えています。
贋作といわれるものに、フェルメールらしからぬがあるんですよね。それが、とーしさんは、「穏やかさ、静けさ、落ち着きを裏切るもの」とされました。詩的で視的な指摘です。
KAFKAは、らしからぬものを、その画家の精神、心理も考えることがあるんです。
もっと違う絵を描いてみたい、こうしたらどうだろう、少し遊んでみようか、という自分の描くものへの倦怠からの脱出。そして苦しい、明日生きられるか、戦争に行かなくてはならないなどという生活や歴史、そして宗教や政治の節目。そして依頼の絵ですよね。
フェルメールは、描きたい絵を描いていたわけではなく、売るためでもあったわけですよね。15人の家族を養うパン代です。依頼があった場合、その依頼者が喜んでお金をだしてくれる絵です。フェルメールは、そんなとき、「穏やかさ、静けさ、落ち着きを裏切るもの」も描いたかもしれません。
そして、やはり贋作と考える。ギャラリストですよね。画商たちが、目をつけたフェルメール。贋作を描くものは、技術を真似ますね。輪郭も真似ることができます。でも、フェルメールの哲学を真似ることができません。
赤い帽子をかぶった婦人が、私は嫌いなのは、品性がないです。だらしなさがみえる。これは清らかさがないんです。娼婦のようです。それが、取り持ち女の娼婦と違うのはなぜなんだろう。娼婦を娼婦として描いているのと、婦人を描くのに娼婦のような雰囲気が漂ってしまった。
これはひとえに、哲学の違いだからかもしれません。つまり哲学の違う人が描いた。贋作ですね。
フェルメールの哲学は、とーしさんのいう「穏やかさ、静けさ、落ち着き」を象徴していると思います。「聖・清・静」なんですよ。
投稿: KAFKA | 2006年9月28日 (木) 22時22分