エドワード・バーン=ジョーンズ 眠れる森の美女 いばら姫(眠り姫)
ラファエル前派のエドワード・バーン=ジョーンズの眠り姫(いばら姫)をご紹介するまえに、序書として、ジョン・ディクソンの作品「眠り姫」をご覧ください。
まるで英雄ペレウスと海の女神テティスの婚宴に招かれなかったように、この物語も国王夫妻に誕生した姫君の祝宴によばれなかった13人目の魔女が「王女は錘が刺さって死ぬ」と呪いをかけました。
ペレウスとテティスの場合は「いちばん美しい人へ」と争いの女神が「黄金の林檎」をなげいれ、「パリスの審判」からヴィーナスが勝利し、そして「トロイア戦争」がはじまります。
過去記事 ルーカス・クラナッハ「パリスの審判」
関連記事 「パリスの審判 三女神黄金の林檎を争うこと」
眠り姫は、まだ祝いの贈り物をしていなかった12番目の魔女が、その呪いに「姫は死なず100年眠るだけ」と死の呪いをかえました。
ジョン・ディクスンの「眠り姫」は、ちょうど15歳になったある日、塔につながる階段をのぼり、小部屋をみつけます。塔の一番上の小部屋の老婆。描かれている老婆が、13番目の魔女でした。
魔女が紡いでいた錘で手を刺したその瞬間をディクソンは描いているのです。
エドワード・バーン・ジョーンズ
「ブライア・ローズ」 ポンセ美術館
エドワード・バーン・ジョーンズの連作「眠り姫(いばら姫)」 (1870~1873年)は、ファーストシリーズのポンセ美術館所蔵のものです。オックスフォードシャーのファリンドン・コレクション・トラストのものも有名でそのほかにも何枚も描いています。
わたしがエドワード・バーン=ジョーンズの「いばら姫」で一番好きなのはポンセ美術館の第四場面です。
いばらの森、眠る王の2枚がブライア・ローズ(いばら姫)と同じポンセ美術館所蔵ですが、三番目の「中庭」の場面の所蔵先が不明です。
いばら姫シリーズ (1871-73) ポンセ美術館
1.いばらの森 2.閣議室(眠れる王)
ポンセ美術館所蔵は、中庭を除いた3作品がシリーズです。
Date:unkown(所蔵先、制作年数不明)
3.中庭
連作はどの作品も場面は同じで背景や立ち姿などに変化があります。
第一場面
いばらの森にはいる王子
王子がいばらの森にはいると、すでに何人もの王子や廷臣たちが眠り続けています。
100年のあいだに多くの人々がいばら姫を目覚めさせるためにいばらの城にやってきていたのです。
ここでの物語りもいろいろあります。王子ではなく鷹狩で迷い込んだ王。この王にはすでにお妃がいます。
第ニ場面
眠る王
いばら姫の父である王。左には妃とみえる女性が眠っています。
一説にはいばら姫の母は亡くなってしまったという物語もありますが、バーン=ジョーンズは妃を描いているようです。
いばら姫のお妃は悲嘆して自殺したというお話のほかに、眠るいばら姫を残し、王と城を離れるというお話しもあります。
第三場面
中庭
中庭では機織を目の前に倒れている女性たち。糸を紡いでいたのでしょうか。
姫が呪いをかけられたときに紡ぐ道具をすべて燃やしてしまったと語られていますが。
ペローの童話、グリムの童話、ジャンバティスタ・バジーレのペンタメローネと「いばら姫」は伝承されていますが、他国の王が眠り姫の城に鷹狩の途中で立ち寄り姫と王の間に子供ができ、王の国の王妃がその子供をスープにしてしまおうと企むなどのお話しもあります。
グリムはいちばん夢物語のような「いばら姫」ですが、ペローもバジーレも「子供」がいるという設定は同じです。
つまり「性」の物語として扱っているようなんですね。
第四場面が「いばら姫の閨」です。「いばら姫の私室」とありますが、眠っている間、あるいは目が覚めたあとの王との寝床と考えれば「閨」なのかもしれません。
ペンタメローネではこの物語は「ランプツェル」、「太陽と月のターリア」などにお城に幽閉された娘がこっそり恋をし子を宿すお話しです。
過去記事 IL PENTAMERONE
関連記事 LO CUNTO DE LI CUNTI
関連記事 ペンタメローネ 二日目第一夜
こちらの1890年のセカンドシリーズのほうが知っている方も多いかも知れませんね。オックスフォードシャーのファリンドン・コレクション・トラストのもので、バスコット・パークの応接室のような部屋の壁に装飾されているようです。
ファーストシリーズに比べて、背景や小物が多く描かれています。どちらかといえばファーストシリーズのほうがシンプルで好きですね。
呪いもそうですが魔女が妖精だったり物語によって違ってきます。眠りについた姫を、父王と妃である母は、別れを告げて城をさるなど様々です。
日本での「童話」に訳されているのに多いのは、すべての人が眠りにつくというお話ですね。料理人は料理をしているとたんに眠り、鼠を追いかけている猫がその姿のまま眠り、飛ぶ鳥も羽を羽ばたかせたまま眠るというお話し。
エドワード・バーン=ジョーンズ いばら姫(ブライア・ローズ)
第一場面 いばらの森 1869年
現在オークションハウスのクリスティーズにあります。
エドワード・バーン=ジョーンズ「眠れる姫君」1886-88年
いばら姫(ブライア・ローズ)
第四場面 いばら姫の私室に似ています。
こちらは所蔵先が不明でした。バーン=ジョーンズの娘マーガレットをモデルにした「眠れる姫君」です。
第四場面のいばら姫は連作に比べるとすごくシンプルなので習作なのかしらとも思いましたが、この作品をマーガレットに贈ったようです。
こちらが習作です。 1870年のものなので、ファーストシリーズのためのものと思われます。所蔵先はリヴァプールのウォーカー・アート・ギャラリーです。
この閣議室(王の眠り)は1872-92年制作のものでデラウェア美術館です。ポンセ美術館のものと非常に似ていますよね。お花の描き方が違うんですよ。
エドワード・バーン=ジョーンズ いばら姫(ブライア・ローズ)
第三場面 中庭(習作) 1889年
エドワード・バーン=ジョーンズ 「いばら姫」 1872年
ダブリン ヒュー・レーンアートギャラリー所蔵
1889年の作品ですが、まるでアートトリックのように描かれていますよね。エドワード・バーン=ジョーンズの作品は教会に収める作品は、まるでイタリアルネサンスのようですし、「受胎告知」、「キリスト降誕」、「東方三博士の礼拝」、「最後の晩餐」など、そのテーマにふさわしい描きかたができる不思議な人。
わたしは「ラファエル前派」というと挿絵的で独特の色つかいと思っていましたが、エドワード・バーン=ジョーンズは、みなさんもご存知のように様々な作品を残しています。
セカンド・ヴァージョンのバスコット・パークのサロンの写真で、右には眠るいばら姫、左には中庭が配置されている間に3枚のシリーズが挟まれています。全部で10作品あるそうです。
Briars
The Briar Wood
Briars
Briars, with Helmet and Greave
A Terrace, with a Curtain hanging before a flowering Briar
The Council Chamber
A Terrace, with a Curtain hanging before a flowering Briar
A Stone Hall with flowering Briars
The Garden Court
A Stone Hall with flowering Briars
A Stone Kitchen overgrown with Briars
A Kitchen with a Cupboard overgrown with Briars
The Rose Bower
A Kitchen, with a Basin, Towel and Briars
ではエドワード・バーン=ジョーンズの「スリーピング・ビューティー」という作品をご紹介します。「眠れる美女」でいいかな?
エドワード・バーン=ジョーンズ 眠れる美女
エドワード・バーン=ジョーンズ 眠れる美女
このあたりは、ペンタメローネを意識しているような描き方です。たぶん連作はグリムをイメージしていたのでしょうか。官能的なポーズをとる眠り姫、ペローやバジーレの寓話です。
さて最後はこちらの記事の紹介です。「ヴィーナス賛歌」はみなさまもよくご存知の作品ですが、美しく描かれた背景をよくよくご覧になられたことは少ないと思います。
どうぞこちらの記事からご堪能くださいませ。
エドワード・バーン=ジョーンズ ヴィーナス賛歌 Laus Veneris by Edward Burne-Jones
バーン=ジョーンズ関連記事
記事 ペルセウス
記事 アーサー王シリーズ(タペストリーほか)
記事 バーン=ジョーンズ 聖ゲオルギウスの伝説
記事 エドワード・バーン=ジョーンズ 7枚の運命の女神の車輪
記事 サン=ローランコレクションのタペストリー
記事 サン=ローランコレクションのパネル
記事 「エドワード・バーン=ジョーンズ ヴィーナスの誕生」
記事 「エドワード・バーン=ジョーンズ ウェヌス・エピタラミア(祝婚歌のウェヌス)」
XAI
バーン=ジョーンズ シリーズ「薔薇物語」
たくさんの作品記事にリンクさせています。年代別になっています。
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コメント
はじめまして、春夏と申します。
僭越ながら、私のブログにて『いばら姫』について触れることとなり、以前美術館で観たバーン・ジョーンズの作品(1872年
)についての情報がどうにかないかと思い検索してみたところ、この素晴らしい記事にたどり着きました。一連の作品を総覧でき、感動しました。
事後のご連絡となり大変失礼ではございますが、当記事をご参考として掲載させていただいております。ご不都合あるようでしたら修正しますので、ご連絡いただければ幸いです。
他の記事もとても興味深く思いますので、また遊びに来させていただきたいです^^
投稿: 春夏 | 2013年3月 3日 (日) 03時34分
ようこそいらっしゃいました。コメントありがとうございます。海外サイトの困ったコメントに埋もれてわかりませんでした。ごめんなさい。
春夏さんの感性豊かなブログを拝見しました。まるで吟遊詩人が歌うような日記のつぶやき。
詩、歌、音など文字の絵画にひと時を浸りました。本当に春夏さんの心模様が織り込まれた内容で、深く拝見させていただきました。
投稿: kafka | 2013年8月27日 (火) 09時39分