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2010年5月25日 (火)

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ Dante Gabriel Rossetti

Astarte Syriaca, D.G. Rossetti  manchester

シリアの女神アスタルトまたはシリアの女神アスタルテ
(ASTARTE SYRIACA)
1877年 マンチェスター美術館
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

ロセッティの「ウェヌス・ウェルティコルディア」の検索が多いので記事を独立させました。以前の過去記事にも、そのまま残しています。

それだけでは申し訳ないので、作品を三点ご紹介します。シリアの女神アスタルテは美術書からスキャナしたものです。

シリアの女神アスタルト(女神アスタルテ)は太古の女神からアプロディーテとウェヌス(ビーナス)に同一視された一人です。古代ギリシャやローマでは「アスタルテ」と呼んでいました。

美と豊穣の女神として崇拝されていたよう。その一方で歴史の統治者で、創造と破壊を繰り返し、新しい世界をつくり続けたと言われています。

申命記や旧訳聖書の列王記などにも名があがり、女神天の女王も彼女の呼び名ですが、この異教の女神はキリスト教の布教とともに、悪魔側の女神となっていきます。

wikiによると、「黒い服を着た美しい姿だが非常に残忍な性格で、唇からは一筋の血を流し続け、他人の苦痛に微笑むという」とありましたが、「美しくも勇猛、残忍な争いの女神としての側面を持っているため」とも。

Astarte Syriaca, D.G. Rossetti  manchester

アプロディーテと同一視されるのもうなずけますね。ロセッティはこの同じタイトルの詩を創作しています。

Mystery: lo! betwixt the sun and moon
Astarte of the Syrians: Venus Queen
Ere Aphrodite was. In silver sheen
Her twofold girdle clasps the infinite boon
Of bliss whereof the heaven and earth commune:
And from her neck's inclining flower-stem lean
Love-freighted lips and absolute eyes that wean
The pulse of hearts to the spheres' dominant tune.

Torch-bearing, her sweet ministers compel
All thrones of light beyond the sky and sea
The witnesses of Beauty's face to be:
That face, of Love's all-penetrative spell
Amulet, talisman, and oracle, -
Betwixt the sun and moon a mystery.

KAFKA 意訳(誤読あり)

その謎を見よ、太陽でもあり月でもある
シリアのアスタルテ、女王ヴィーナス、
やがてはアプロディーテ
その姿は白銀の光彩のなか
女神の二重の帯には無限の恩恵
至福に就いて天地と交わり
傾げた首に天上の花
愛を渡すその唇、引き裂く上天の瞳
天球の音階の旋律は心を鼓動させる

愛らしい御使いが仕え、松明をかざす
空と海の遥か先の光が、玉座を照らす
美しき面影を見れば その面影に
たちまち愛の呪文に侵される
魔除けと守りに神のお告げ
太陽でもあり月でもあるその謎よ


過去記事  4月の寓意 オウィディウス「祭暦」 から


Venus Verticordia, D.G. Rossetti

ウェヌス・ウェルティコルディア 1864-68年
(心変わりを誘うヴィーナス)
Russell-Cotes Art Gallery and Museum
Dante Gabriel Rossetti

19世紀のラファエル前派、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティはオウィディウスの「祭暦」の不貞に対して神助を求めるための女性たちのウェヌス・ウェルティコルディア(心を変えるウェヌス)を、「人の心を変えてしまうファム・ファタルなウェヌス」としてしまったんですね。

ロセッティのソネット

その女が差し出す林檎を前に
わずかに心に残る迷いに
引き返すことができるだろうか。
女は思いを一心に凝らし、
まだ恥らっているごとく
男の魂の奥深く注ぐその瞳。
女が呪文を囁く。
「甘美に身を委ねる人よ
その林檎を唇に押しあてて
つかの間の甘さに酔えば
たちまち矢が心を貫く
それは永遠にさまよい続ける運命となれ」

ロセッティはタイトルをオウィディウスの「祭暦」のウェネラリア祭りのウェヌスから用いて、「悪徳に誘惑される若者の寓話」のヴィーナス像を描いているようです。

Honeysuckle

描かれている吸葛の花言葉「愛の絆」

ロセッティの添えた言葉から、アダムとイヴを想像させます。「それは永遠にさまよい続ける運命となる」と結んでいますが、描いているパリスの審判で得た黄金の林檎は禁断の木の実で、その木の実を口にして、楽園追放となった運命をさしているのでしょうか。

そのウェヌスが神花のミルトスの代わりに黄金の蝶のティアラをつけています。蝶は「ヴァニタス(儚さ)」を寓意したもので、引き返すことができなかった男たちの魂を象徴しているようです。

Venus Verticordia, D.G. Rossetti

人の心を変えるヴィーナス
(魔性のヴィーナス)個人所蔵
Dante Gabriel Rossetti

もう一枚のロセッティの「ウェヌス・ウェルティコルディア」は恋人の一人ファニー・コーンフォースをモデルにしたドローイング。色付きはポスターから。左が写真画像のモノトーンです。

背後に銘文?かなにか書いてます。

こちらもパリスの審判によってヴィーナスに贈られた黄金の林檎を持っていますが、蝶は描かれていません。パリスの審判の林檎を持たせたのなら、なぜ「ウェヌス・ウィクトリクス(勝利のウェヌス)」としなかったのかな?

Venus Verticordia, D.G. Rossetti

パリスの審判の文脈ではこの勝利のウェヌスがでてくるからです。

ロセッティのウェヌス・ウェルティコルディアの背後はやはりウェヌスを象徴する薔薇。

ウェヌス・ウェルティコルディアは決してファム・ファタルの代名詞ではありません。ロセッティはウェヌスの神話をすべて同一視して描いたようです。いくつかの添え名のウェヌスをロセッティの物語に変えて。

Venus Verticordia

She hath the apple in her hand for thee,
Yet almost in her heart would hold it back;
She muses, with her eyes upon the track
Of that which in thy spirit they can see.
Haply, "Behold, he is at peace," saith she;
"Alas! the apple for his lips, - the dart
That follows its brief sweetness to his heart, -
The wandering of his feet perpetually!"

A little space her glance is still and coy,
But if she give the fruit that works her spell,
Those eyes shall flame as for her Phrygian boy.
Then shall her bird's strained throat the woe foretell,
And her far seas moan as a single shell,
And through her dark grove strike the light of Troy.


ロセッティ ソネットと絵画作品(写真画像)


Proserpina(1881-82) Tate Gallery
Dante Gabriel Rossetti

Proserpina(1881-82) Tate Gallery
Dante Gabriel Rossetti

Afar away the light that brings cold cheer
Unto this wall, - one instant and no more
Admitted at my distant palace-door.
Afar the flowers of Enna from this drear
Dire fruit, which, tasted once, must thrall me here.
Afar those skies from this Tartarean grey
That chills me: and afar, how far away,
The nights that shall be from the days that were.

Afar from mine own self I seem, and wing
Strange ways in thought, and listen for a sign:
And still some heart unto some soul doth pine,
Whose sounds mine inner sense is fain to bring,
Continually together murmuring, -
"Woe's me for thee, unhappy Proserpine!"

Mnemosyne1881 delaware art_museum

Mnemosyne(1881)Delaware Art Museum
Dante Gabriel Rossetti 


プロセルピナ(1881-82) テートギャラリー 
ダンテ・ガブリエル・ロセッティ

「 クピドとプシュケ」でプシュケがウェヌス(アプロディーテ)に命じられてプロセルピナが持っている美の秘密が入った箱を取りに冥界までいくのでしたね。プロセルピナはこころよくプシュケに手渡します。

このプロセルピナは神話をお読みになられている方々はおわかりでしょう。豊饒の女神ケレスの娘。

ロセッティがプロセルピナに描いた柘榴。冥界の柘榴を食べたために、プロセルピナは冥界の王プルートに娶られたのです。地上に半年、冥界に半年暮らすプロセルピナ。

ロセッティのソネット「プロセルピナ」

氷の喝采にもたらす遥かに遠い光
この壁まで来たれ、さあ一瞬でも
そして二度とない、遠い宮殿の入り口に入るのだから
花摘みをしたエンナの谷間の悲惨な果実
一口の罪がこの物悲しいところへさらわれた
灰色の冥界より遥か彼方の上空
どれだけ離れたのかと思えば震えてしまう
この夜から私は仕えなければならない

プロセルピナの不幸をロセッティは創作しました。

煙が立ち昇る香炉。弱々しくたなびいています。信じ難い運命を、この異界で生きていかなければならない恐れ。そして冥界の王の花嫁としての夜伽。悔やんでも悔やまれない悲惨な果実は、イヴが侵した禁断の木の実のように、地上という楽園から失楽園に連れ去られたプロセルピナ。

キリストの受難の柘榴。プロセルピナの受難を描いた作品です。


ムネモシュネ(ムネーモシュネー)1881年 デラウェア美術館
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

wikiによると「エレウテールの丘の主で、ピーエリアにおいてゼウスと9日間に渡って添い臥し、人々から苦しみを忘れさせる存在として9人のムーサたちを産んだという。」

ムーサの母になるんですね。、カリオペー、クレイオー、メルポメネー、エウテルペー、エラトー、テルプシコラー、ウーラニアー、タレイア、ポリュムニアーのムーサは神話にも登場します。

ムネモシュネ(ムネーモシュネー)は「記憶の女神」らしく、文芸の女神ムーサたちを誕生させたことのほかあまり知られていません。

バーン=ジョーンズが「アーサー王」のシリーズを作品化しているなかで、マーリンも描いています。このマーリンを裏切ったのが愛弟子でもあり恋人でもあったニミュエです。

このムネモシュネ(ムネーモシュネー)からニミュエと名づけられたという説もあるようです。

この「ムネモシュネ」と「プロセルピナ」はF・R・レイランド(ホイッスラーの孔雀の間をもつ大富豪)のドローイング・ルームにけられていました。この二枚の中央が「祝福されし乙女」のデラウェア美術館所蔵のほうの作品です。

「祝福されし乙女」は友人がアップする予定です。記事がエントリーされたらリンクでご紹介いたします。


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コメント

My cousin recommended this blog and she was totally right keep up the fantastic work!

投稿: medical assistant | 2010年6月17日 (木) 17時25分

Thank you very much!

投稿: kafka | 2010年6月23日 (水) 14時04分

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