2011年4月23日 (土)

ローレン・チャイルドのクラリス・ビ~ン リバティがいちばん!?

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クラリス・ビ~ンを読んだ人はクラリス・ビーンとはきっとしませんヨね!(笑) ローレン・チャイルドの絵本から生まれたクラリス・ビ~ンは見るからにおしゃまさんです。

クラリスの家族は大家族。ボケたおじいちゃん、両親、引きこもりの兄クルト(Kurt)、頭の中はおしゃれと男の子のことばかりの姉マーシー(Marcie)、弟ミナル(Minal)、そしてシリーズに登場する叔父さん。

クラリス・ビーンのシリーズは、とっても楽しい。


ローレン・チャイルドは、いまは廃止されている児童文学のスマーティーズ賞を何度も受賞していますが、英国図書館協会によって設立された絵本作家ケイト・グリーナウェイにちなんだケイト・グリーナウェイ賞も受賞しています。

Bobton

大好きな ヒューバートくんのお話
Hubert Horatio Bartle Bobton-Trent

ケイト・グリーナウェイはあの美術評論家ジョン・ラスキンも認めた絵本作家!画家ホイッスラーとおおもめに揉めたそのラスキンが認めたというからには、この賞はずいぶんと権威あるものなのでしょう。


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ローレン・チャイルドの「クラリス・ビーン あたしがいちばん!」にもあるように、テキストに視覚的形態を用いています。17世紀のジョージ・ハーバートにはじまり、ルイス・キャロルの「長い尾話」(不思議の国のアリス)、20世紀にはピエール・ルヴェルディ

ローレン・チャイルドは、反秩序な視覚的形態を用いていますね。


ローレン・チャイルドの描くクラリス・ビ~ンなんですけど、私が小さかった時代の女の子たちを思い出させてくれることがあります。

それはクラリス・ビ~ンのお洋服。

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このカンジ、日本の昭和時代の少女にみえませんか?ちびまるこちゃんと同じ時代に思えるのです。

今回のリバティプリントのイラストも日本的なものを感じます。


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Lauren Child at Liberty

日本の和紙、その千代紙(Chiyogami)に描かれた伝統的な紋や模様に思うのはKAFKAだけ?ジャポニズムを感じます。リバティ社やローレン・チャイルドのコメントにはありませんが。

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クラリス・ビーンが着ている服は、リバティの古くからある桜のプリント「Pep ペップ」。その左側はジリアン・ファー(Gillian Farr)が1960年代初めにデザインした「Delfie デルフィ」です。右はリバティ社が1938年にプリントされた柄をリメイクした「Helena’s Party ヘレナズ・パーティ」です。イラストの幹に描かれています。

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クラリス・ビーンの背景に描かれた花の咲く樹木は、チューズデイ・ツリーズ(Tuesday Trees)と名づけられました。ローレン・チャイルドのイラストから制作されたものです。

TBありがとうございます。
Florence × リバティ Tuesday Trees


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ローレン・チャイルド(Lauren Child)は1965年生まれですから、ジェーン・レイより、ちょっぴり年下です。

1999年の「あたしクラリス・ビーン」(Clarice Bean, That's Me)は、はじめて描いた絵本。

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三冊とも「あたしクラリス・ビーン」ですが、真ん中はスペインで出版されているものです。

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お姉ちゃまのマーシーはベッドであれこれ考え中。パソコンを使い、コラージュが多いローレン・チャイルドは、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」と同じく、言葉遊び、造語が多いのも特徴です。


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「あたしの惑星!クラリス・ビーン」(What Planet are You from Clarice Bean?)です。

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ウィルバートン先生の登場です。環境の課題を出し、クラリスは苦手な子とペアを組まされます。

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引きこもりの兄が「自然破壊を食い止める」と言い出しました。そして木の上での抗議。

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「あたしの惑星!クラリス・ビーン」の壁紙はローレン・チャイルドのオフィシャルサイトからどうぞ。


「テッドおじさんとあたし クラリス・ビーン」 (My Uncle Is a Hunkle Says Clarice Bean)の作品もとっても洒落ています。

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ママがアーニーおじさんが入院したためニューヨークへ。パパは出張。テッドおじさんが、子供たちのために留守番にやってきました。そこでいつものように騒ぎがおこります。


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KAFKAが一番好きなローレン・チャイルドの絵本です。はじめに紹介した「ヒューバート・ホレイショ・バートル・ボブトン-トレント」です。

とっても裕福な家に生まれたヒューバートくんのお話です。

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誕生したヒューバートとその両親です。マリー・アントワネットが国庫が空になっていることも気がつかずに舞踏会に出かけていたのと同じように、このご両親もパーティに明け暮れていました。

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賢く育ったヒューバートくんは、幸せとはお金ではなく価値であることを知っています。そのことを両親が理解するまでのお話です。


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ローレン・チャイルドの「えんどう豆とお姫さま」です。アンデルセンの物語。ある国の王子はお妃をむかえようとしていました。

でも気に入ったお姫さまは探すことができずにいると、ある晩のこと。雨にぬれながら、「私こそ、王子が探している姫でございます。」という一人の娘がやってきました。

本物のお姫さまなのでしょうか?

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王子の母親は、一粒のえんどう豆をベットにしのばせて、二十枚の敷布団に二十枚の羽毛のかけ布団を備えました。

目覚めた姫に母親は寝心地をたずねると、背中にあざができてしまったという娘に、たった一粒のえんどう豆であざができるのはよい布団で休んでいたからだと、その娘を妃に迎えたのです。

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実紙人形のローレン・チャイルドの「えんどう豆とお姫様」です。ドールハウスをうまく使った写真の絵本。

装飾も当時のヨーロッパの雰囲気がでていますね。

ローレン・チャイルドのクラリス・ビ~ン リバティがいちばん!?
デビッド・マッキー ミスター・ベンの赤い鎧とリバティプリント
リバティ プリント ジェーン・レイの童話 Jane Ray at Liberty
>ブライアン・ワイルドスミス Brian Wildsmith
エマ・チチェスター・クラーク(Emma Chichester Clark)の絵本

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2011年4月21日 (木)

デビッド・マッキー ミスター・ベンの赤い鎧とリバティプリント

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David McKee at Liberty

日本でも「象のエルマー」のほうが知っている方が多いと思うのですが、デビット・マッキー(David McKee)の「ミスター・ベン」(Mr Benn)は、BBCでも放映(1970年代)された有名なシリーズ。

物語は古ぼけた小さなお洋服屋さんからはじまります。


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ミスター・ベンは仮装パーティーに招待され、「きがえ部屋」で赤い鎧を試着。そこにはもう一つの扉。「おためし部屋」の扉を開けて現実逃避の冒険がはじまります。

YOU TUBE Mr Benn - Series

このシーンは冒険が終わって、試着の赤い鎧を店主に引き渡すところ。この場面をリバティ社の依頼で制作したイラストに使用しているデビッド・マッキー。


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リバティプリントでは赤い騎士(The Red Knight)にダグラス・ ストライプ(Douglas Stripe)を着せていますよ。

はじめは大きなティディ・ベアかと思っていたら、鎧だったんですね!このミスター・ベンのシリーズは邦訳されています。ミスター・ベンのふしぎなぼうけんです。


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古ぼけたお洋服屋さんの店主は、デビッド・マッキーのリバティプリントで、ベストにドロシー・ワットン(Dorothy Watton)、シャツはオリビア・ストレンジ(Olivia Strange )、トラウザーズ(トラウザー)にルーベン・ケリー(Rueben Kelly)で決めて、そして部屋の壁紙はライザード(Ryszard)です。


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ぞうのエルマー(Elmer the Patchwork Elephant)は、パッチワーク柄で有名でした。こちらは原画。このシリーズは1968年の出版で、はじめての絵本から4年後の作品。ミスター・ベンは1970年はじめの作品です。


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Illustrations (C) David McKee and Harper Collins

このイラスト、マイケル・ボンド(Michael Bond)の「くまのパディントン」ですが、デビット・マッキー(David McKee)によるイラストの「くまのパディントン」です。

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Paddington Bear by Michael Bond

オリジナルのマイケル・ボンドのパディントンの顔より幼いですね。

デビッド・マッキーは王様ロロ(King Rollo)のシリーズも翻訳されていますが、どの作品もカラフルでキャラクターがはっきりしています。 ジェーン・レイとはまた違うユーモアのある作風です。


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(C)amazon uk "David McKee" in Books

"David McKee" in Books
デビッド・マッキーの絵本はこちら

デビッド・マッキーの絵本は翻訳されていますが、英 amazon から多数の絵本をみることができます。

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Magician and the Sorcerer

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Zebra's Hiccups


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このデビッド・マッキーのミスター・ベンは、「山高帽」で有名な画家、あのルネ・マグリットの山高帽の紳士に基づいている作品があります。

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Magritte's bowler-hatted men (C)Live Read 2011

あのTate Liverpool.(テート・リバプール)でのマグリット展、そしてミスター・ベンの絵本誕生40周年の記念にLive Read 2011で公開されました。

ルネ・マグリット
KAFKA  過去記事 ルネ・マグリット ファンタスティック
マグリットの山高帽の記事 ルネ・マグリット 代表作
ルネ・マグリット作品記事リンク XAI ルネ・マグリット

すごいですね!ミスター・ベンの威力って!その秘密はもいかしてルネ・マグリットの山高帽の男なのかもしれません。

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デビッド・マッキー の「せかいでいちばんつよい国」では、赤い鎧ではなく赤い兵隊服を着ています。

大国の大統領が人々を幸福にするために世界中を征服するという発想は、兵隊のいない小国の住民たちの「心」によって、変化をもたらします。

真心のその精神はもしかすると「自由、平等、博愛」でしょうか?

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フランス革命において「自由、平等、博愛しからずんば死を」(Liberte, egalite, fraternite ou la mort)という言葉がありますね。

このイラストにデビット・マッキーの添え書きにミスター・ベンと店主の会話がありました。

”The Knight looks a bit french ”
(とてもフランス風の騎士にみえるとベン。店主はその理由を尋ねます。)

”You know. egalite, fraternite,Liberty”
(平等、博愛、自由でしょう?)

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英語ではLiberteは,Libertyですものね。

日本のリバティ社のHPでは、「ミスターベン」がリバティプリントのピンクの騎士として紋章の探検にいくところとあります。いえいえ、リバティプリントのピンクの鎧を試着して、「おためし部屋」の扉を開いたとたん、紋章の探検にいく羽目になるのでしょう。

そして「今日の探検はこれでおしまい」というミスター ベンの決め文句が聞こえてきそうです。

ローレン・チャイルドのクラリス・ビ~ン リバティがいちばん!?
デビッド・マッキー ミスター・ベンの赤い鎧とリバティプリント
リバティ プリント ジェーン・レイの童話 Jane Ray at Liberty
>ブライアン・ワイルドスミス Brian Wildsmith

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2011年4月17日 (日)

リバティ プリント  ジェーン・レイの童話 Jane Ray at Liberty

ローラ アシュレイもよいけれど、リバティもいいですね! いろんなブランドがリバティプリントを使用して、靴やバック、お洋服をつくっています。

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MILKFED. ( ミルクフェド ) ×NIKE(ナイキ)× Liberty(リバティ)のWMNS DUNK HI(ウィメンズ ダンクハイ)はとっても可愛い!

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でもKAFKAが欲しいのは ↑ コレ! リバティ社が絵本作家のジェーン・レイ(Jane Ray)にファブリックデザインを頼んだ「David Joe(デビッド ジョー)」に似ている気がして。と思いきや、クエンティン・ブレイクさんのデザインでした!「Kara’s Trees 」です。

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Jane Ray David Joe C, Tana Lawn Liberty Fabric

もうすぐ「AMACA アマカ」(三陽)で、ジェーン・レイ(Jane Ray)がデザインしたその「David Joe(デビッド ジョー)」のファブリックを使用したワンピースだったかチュニックにあわせたいと思っている私です。

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Jane Ray David Joe C, Tana Lawn Liberty Fabric

「ナイキ」でも三陽商会のブランド「AMACA アマカ」でも、ジェーン・レイ(Jane Ray)の童話「白雪と紅ばら」のイラストを紹介していました。


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(C)Liberty S/S 11 lookbook


このイラストがジェーン・レイ(Jane Ray)の童話「白雪と紅ばら」です。思い出しませんか?この右下の熊さんが魔法にかけられた王子様。「白鳥の湖」ではロットバルトがオデットを呪い、「美女と野獣」では野獣が呪われ、同じように魔法で人間以外の姿に変身させられます。

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Jane Ray David Joe C, Tana Lawn Liberty Fabric

そんな童話の世界に描かれた一部がリバティプリントになっているんです。着てみたいですよね。手作り派の皆さんは、もう「David Joe(デビッド ジョー)」のファブリックを取り寄せて、「私だけの一枚」を楽しんでいることでしょう。私はAMACA買いで!


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Jane Ray

ジェーン・レイとリバティ社を結んだのは、彼女の絵本「人魚の捕まえ方(How to Catch a Mermaid)」でした。

少女エリザと人魚フレイヤの友情の物語。ジェーン・レイのオリジナルのお話のようです。

How_to_catch_a_mermaid

この作品に描かれている魚は人物よりとってもキラキラしています。どちらかというと人物より生き物の方が上手かも。

ジェーン・レイのリバティプリントは下記リンク先から
Jane Ray at Liberty

ピーター・ラビットのヘレン・ビアトリクス・ポター(Helen Beatrix Potter)、大好きな「不思議の国のアリス」のルイス・キャロルに傾倒した、ジェーン・レイならではの絵本です。


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ジェーン・レイ 白雪姫

Snow_white

でもプリミティブの描き方なので、ちょっと物足りなさを感じる方も多いでしょう。でも白雪姫の舞台しかけ絵本はとっても面白い!

飛び出す絵本のようで、また違う。なんともいえない面白さ。

Jane Ray Illustration Books
ジェーン・レイのサイトに本の紹介がされています。


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ロジャー ラ ボーデのカード

彼女は背景の草木や花の描き方が素敵なのです。ロンドンのRoger la Borde(ロジャー ラ ボーデ)のカードをみると、そのプリミティブな描き方に癒されます。

ジェーン・レイのカードに描かれている草木は、ファブリックのプリントに生かされるような描き方。


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ジェーン・レイの水彩画 アダムとイヴ

これは「アダムとイヴ(アダムとエヴァ)」の水彩画です。

木の下で背中あわせのアダムとイブですが、ジェーン・レイ独自の発想が描かれていて、禁断の実を食べたあとではないでしょうか。二人とも身体を隠し、羞恥心をあらわしているようにも思えます。


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絵本「Adam And Eve And The Garden Of Eden (アダムとイヴとエデンの園)」の表紙では、身体を隠さない二人。そして鳥や動物たちが生き生きと描かれています。

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楽園追放になるアダムとイヴの物語で、文もジェーン・レイによるものです。禁断の木の実を食べる前とその後。右側の二人は蛇のくねる身体から顔をのそかせかじった禁断の実を手にしています。


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絵本「12人の踊るお姫様」 イラスト ジェーン・レイ

グリム兄弟の「12人の踊るお姫様」も、お姫さまより背景のほうが魅力的ですね。ところがハッとする場面や表情、そして躍動感が伝わってくる力作が含まれています。

ジェーン・レイのその1冊から、その素晴らしい1枚を発見できる楽しさがあります。


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スマーティーズ賞「創世物語」

すでに数年前に廃止された児童文学賞ですが、当時は権威ある賞でした。23年という短い歴史の運営。このジェーン・レイの「創生物語」が1992年に受賞。

もともとブックトラスト(Booktrust)が運営していた英国の児童文学賞ですが、ジェーン・レイの受賞以降、1999年度には、Kids' Clubs Networkが参加、Kids' Clubs Network Special Award の選出、2004年にはThe 4Children Special Awardとの名称変更、2005年に廃止という複雑な児童文学賞。

こうした経緯のあとにブックトラスト(Booktrust)と、ネスカフェ、ミロでお馴染みのネスレ社(Nestlé)が  「ネスレ子どもの本賞 The Nestlé Children's Book Prize」(旧スマーティーズ賞)としましたが、2007年をもって最後となりました。

Tree

この水彩画「木(TREE)」はジェーン・レイが1992年に、6歳-8歳部門でスマーティーズ賞 ( Smarties Prize)を受賞した「創世物語(The Story of Creation)」のものです。

ネスレ記事
ネスレ愛好者に捧げる, HOMMAGE RESPECTUEUX de NESTLE, ミュシャ

絵本作家、リバティ・アートプリントのデザインだけのジェーン・レイとしてみるよりは、イラストレーターのジェーン・レイを知ることによって、もっと楽しむことができます。


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カティ・ヘンダーソン 戦争に巻き込まれた少年
イラストは、ジェーン・レイ

たとえば先に紹介したような水彩画、そして書籍の口絵や挿絵などがあります。レイチェル ストーム(Rachel Storm)の「古代中近東の神話と伝説」 は672ページにおよぶ長編で、ジェーン・レイはそのなかに15枚のイラストと口絵を描いています。

ニューエイジャーのレイチェル ストームの著作本にイラストなんて、すごいと思う。

Romeo

ジェーン・レイのロミオとジュリエット(部分)

ジェーン・レイは、ミュシャでも有名な「横道十二宮」や、名のある画家たちが描いた「キリストの降誕」、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」などもあります。


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Jinnie Ghost は、カーネギー賞を受賞したバーリー・ドハーティ(Berlie Doherty)の作品です。イラストはジェーン・レイで、バーリー・ドハティのおとぎ話はいくつかあって、ジェーン・レイはそのイラストも手がけています。

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Jinnieghost

バーリー・ドハティとジェーン・レイのおとぎ話は、「Classic Fairy Tales (Walker Illustrated Classics)」もおすすめです。


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Walker Illustrated Classicのシリーズの1冊で、バーリー・ドハティとジェーン・レイは、コンビで出版されていた作品が掲載されています。シンデレラ、ワイルドスワンなど。

ローレン・チャイルドのクラリス・ビ~ン リバティがいちばん!?
デビッド・マッキー ミスター・ベンの赤い鎧とリバティプリント
リバティ プリント ジェーン・レイの童話 Jane Ray at Liberty
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2010年4月13日 (火)

ウォルター・クレイン walter crane  古代の英国庭園から

左上が当時の表紙です。ページを開くと、裏表紙のほかイラストが。左下は現在ペーパーブック(¥2,600くらい)で売られているものの表紙になっています。

本文はとっても短く2行くらい。ウォルター・クレインの言葉です。はっきりと擬人像には触れていません。言葉と挿絵に連想しながら、KAFKAの勝手な解釈です。

原文はイラストにあります。KAFKAが想像した神話や詩の世界、そしてイギリスの歴史を添えてみたいと思います。

こちらはチューリップにアイリス。神話では西風ゼピュロスが花の女神フローラとの結婚で彼女に贈った花になります。

アイリス

もう一人、ゼウスに求愛されていた女神イーリス(イリス)は西風ゼピュロスの妻とも言われている説があります。彼女がゼウスの妻ヘーラーの伝令役(ヘーシオドスの神統記より)でもあったのです。

彼女はゼウスの求愛を拒み、なぜかよからぬ噂が流れ出て、ヘーラーに問い詰められますが、一言も弁解することなく美しい涙と美しい笑みをそっとヘーラーに返します。

その涙にヘーラーは、彼女を虹の女神にかえ、ネクタール(神々のお酒)を注ぎます。その一滴から誕生したのがアイリスだといいます。

チューリップ

チューリップもやはり求愛を求める果樹と果実の神ウェルトゥムヌスから逃れるために、娘チューリップは貞操と純潔の神ディアナの力で、春の花に変わります。これが「チューリップ」なんですね!

ウェルトゥムヌスは変身物語でのポモナへの求愛が有名で絵画作品にもなっています。

dreaming, Rosamond's Bower,Kronos,Four Seasons

はじまりの緑の木陰に横たわる人。古英国の庭園を夢見ています。ウォルター・クレインその人でしょうか。その隣は鍵をもつ妖精です。「旅人の喜び」という花言葉のとおりに、夢見る庭園に誘うのでしょうか。最後に登場するのでそのときに。

さっそく左下の作品から。時の翁クロノスですね。

時の翁クロノス

彼のアトリビュートは時と命を刈り取る大鎌。死神と同じいでたちですよね。そして時の象徴は翼、そして砂時計です。ブロンズィーノの愛の寓意にも描かれているクロノス。

そして右下。彼女たちは時の女神ホーラたちではないかと。ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」には一人しか描かれていません。

ホーラは3人の女神で描かれることが多いのですが、「四季」から4人描かれることがあります。

四季 フォーシーズン

原文
The Four Seasons' flight forgetting,
As they dance round the dial stone;

「四季(フォーシーズン)」には、「春」は花冠の若い女性、「夏」は鋤、鋤をもつ女性、「秋」は葡萄、「冬」は老人と火です。

神にたとえると、春はフローラ、もしくはウェヌス(ヴィーナス)、秋はバッコス、冬はポレアス、もしくはウルカヌスです。

時、季節の女神ホーラ(ホーラー)たち

女神ホーラはホラ、ホライともいい、ボッティチェリでは春のホーラが登場したのだと思います。

花や果実を手にする姿が多く、曙の女神アウロラ、月の女神ルナ(セレネ)、彼女たちの母ティアの侍女。

エウノミアー(秩序)、ディケー(正義)、エイレーネ(平和)の3人です。この3人の一人が西風ゼピュロス(女性関係が多いです)と交わり、カルポス(果実)を誕生させました。

Jonquil,VENUS'S LOOKING GLASS,LOVE LIES BLEEDING,PRETTY MAIDS

黄水仙

上の2枚には黄水仙が描かれています。女性は古英語を、左は黄水仙の擬人像です。さて一番最初の緑の東屋で横たわる男性をみてください。

その樹木はもうありません。そのかわり黄水仙が咲いています。さて水仙のお話しはもう少しあとに。

女性がもつ古英語はなんと書かれているのでしょう。わたしはウィリアム・ワーズワース(1770-1850)の「黄水仙に献げる詩」を思い出したのですが?

鏡のヴィーナス 

正確には鏡を見るヴィーナスです。Love Lies Bleeding ( ラヴ・ライズ・ブリーディング )とありますが、紐鶏頭(ヒモケイトウ)のことです。描かれている花は矢車菊。

花期が長いというこの花は人間の諸段階と比べると老いが遅いということで、この美と愛の女神ヴィーナスを例えたのではないでしょうか。花言葉は「不死」、「不滅」です。

記事 鏡のヴィーナス

ヴィーナス・・・、ワーズワース(1770-1850)の詩「愛は血を流しながら横たわる」からウォルター・クレインは引用したのでしょうか。イラストにはありませんが、風の花アネモネはアドニスの赤い血から誕生しました。

You call it, "Love lies bleeding," so you may,
Though the red Flower, not prostrate, only droops,
As we have seen it here from day to day,
From month to month, life passing not away:
A flower how rich in sadness! Even thus stoops,
(Sentient by Grecian sculpture's marvelous power)
Thus leans, with hanging brow and body bent
Earthward in uncomplaining languishment
The dying Gladiator. So, sad Flower!
('Tis Fancy guides me willing to be led,
Though by a slender thread,)
So drooped Adonis bathed in sanguine dew
Of his death-wound, when he from innocent air
The gentlest breath of resignation drew;
While Venus in a passion of despair
Rent, weeping over him, her golden hair
Spangled with drops of that celestial shower.
She suffered, as Immortals sometimes do;
But pangs more lasting far, 'that' Lover knew
Who first, weighed down by scorn, in some lone bower
Did press this semblance of unpitied smart
Into the service of his constant heart,
His own dejection, downcast Flower! could share
With thine, and gave the mournful name which thou wilt ever bear.

紐鶏頭とプリティ・メイズ

つぎの場面に描かれているのが紐鶏頭です。弓を持つのはたいていクピド(エロス)ですが子供ではなく少年の姿。もしアネモネに変身したアドニスなら弓ではなく、槍を持っているはずですが。

クピド(エロス)が眠る場面は、アドニスが狩に出かける場面だけ。ウェヌスへの愛が消え去ってしまったということを象徴するため。

Where are you going, my pretty maid?
I am going a-milking sir, she said.
May I go with you, my pretty maid?
You are kindly welcome sir, she said.
What is your father, my pretty maid?
My father's a farmer, sir, she said.
What is your fortune, my pretty maid?
My face is my fortune, sir, she said.
Then I can't marry you, my pretty maid?
Nobody asked you sir, she said.

マザーグースにでてくるプリティ・メイドは「どこに行くの、可愛い人よ」 ではじまります。ヴィーナスも猪狩にいくアドニスにそう声をかけたのでしょうか?

もうひとつ

Mistress Mary

Mistress Mary quite contrary.
How does your garden grow?
With cockleshells, and silver bells,
And fair maids all in a row

つむじ曲がりの愛人メアリ
あなたのお庭はどうなるの?
ちっちゃな貝殻、銀のベル
並んだ並んだ乙女たち

こちらのほうはいかがでしょう。

DENT-DE-LION ,SHEPHERD'S-PURSE,RAGGED-ROBIN,COLTSFOOT
and LARKSPUR,SPEEDWELL

左上はダンデライオン、蒲公英ですね!

Edward, the Black Prince

エドワード黒太子と思われたのは黒い甲冑だけではなく、文中にある羽の紋章からです。黒太子の王冠に束ねられた三本の羽の紋章は、ボヘミア王のジャン・ド・リュクサンブール(ボヘミア王ヨハン)のもの。

盲目のボヘミア王ヨハンは従者の身体とを結んで戦い戦死したのです。その亡骸を発見したのが黒太子の父エドワード3世です。そしてその紋章が黒太子のものとなり、現在でもそれは続いています。

王太子がプリンス・オブ・ウェールズとなることが慣例化されたのが1343年以降。

でもなぜダンデライオンが盾になっているのでしょう。「獅子の牙」を意味しているのでしょうか。

貧しい人々

隣は羊飼いの財布と呼ばれる薺(ナズナ)とナデシコ科のラッグド・ロビン(ラギット・ロビン)とよぶ、リクニスフロスククリ(カッコウ仙翁)。

薺の擬人像の羊飼い。お財布の形が薺に似ているところからこう呼ばれたようです。そして「卑しいラッグド・ロビン」と本文中にありました。

カッコウは他の鳥の巣に卵を産み、育ててもらいます。カッコウのヒナが卵からかえると、その育ての鳥の巣の卵あるいはヒナを落とすのです。

卵もヒナも落ちたら死が待っています。

騎手と競走馬

左下はフキタンポポとヒエンソウ。そしてタチイヌフグリ。雄の子馬に乗るフキタンポポ(コルツフット)の騎手。

右下に左下の原文にあるヒエンソウの騎手とタチイヌフグリの競走馬。花のレースははじまっています。

イギリスの競馬は1540年に始まっています。どこよりも歴史が古いようですね。

HARTSTONGUE,SUNDEW,VENUS'-COMBE for MAIDENHAIR,,KING-CUPS drink BELLA-DONNA,DEADLY NIGHTSHADE'S

山羊さんの小谷渡り(ウラボシ科のシダ)。真実の慰めという花言葉。そしてモウセンゴケと犬。

動物

これは何を意味しているんでしょう。山羊は生贄と贖罪の犠牲となります。あるいはギリシャ神話のパーン(パン)でしょうか。

この獣人の誕生を神々たちは祝福し、「すべての神を喜ばせる」という名を与えられたのです。そして唯一神々のなかで死を迎えたのは、このパーンでした。

犬は猟犬のようなので、イギリスの狩猟の歴史を現しているのでしょうか?それともオリオンが連れている猟犬(おおいぬ座とこいぬ座)?

さて左下のイラスト。コッツウォルズのクームをさすのでしょうか?(いえいえ、ビーナスのアトリビュートなんです。)

このイラストはヴィーナスの髪からシダ、そしてドレスの花はベラドンナ。ではキングのカップといわれる立金花(リュウキンカ)をさすのは何?

このイラストのさいしょの印象。

ヴィーナスの櫛(Venus comb)

VENUS'-COMBE for MAIDENHAIR とあります。ヴィーナスの櫛はホネガイですけど、ここではシダがそのかわりに。

記事 ギュスターヴ・モロー 「アフロディテ(アプロディーテー)」 ヴィーナスの誕生 

シダはシダでもホウライシダの「カピルス・ベネリス」は、学名が「Adiantum capillus-veneris L」といいます。「ヴィーナスの髪」ということだそうです。

シダは、ボッティチェリの「プリマヴェーラ」(春)にも描かれています。

記事 ボッティチェリ La Primavera 「プリマヴェーラ(春)」 ダンテの神曲の楽園説

どうも3枚目の立金花をしめす言葉が原文にありますが、4枚目のイラストへと続きます。3人の騎士が着ている着衣に描かれているのが立金花。

KING-CUPS 立金花

原文はKING-CUPSでしたが、King of Cups のことでしょうか。タロットの「カップのキング」になりますよね。

どちらにもかかるようにわざと「ハイフォン」をつけたのでしょうか。

4枚目のイラストの原文
Glad in purple and gold so fair,
Though the DEADLY NIGHTSHADE'S upon her.

月の女神 

カップのキングが立金花(キングのカップ)を手に、月の女神と祝杯をあげているようです。それともディアナと同一視されている月神ルーナでしょうか。

ギリシア神話のセレーネーと同一視されるアルテミスやヘカテーと一緒になってしまいました。

三つの顔を持つ、魔法の女神ヘレーネは月の女神、たいていはティアラに三日月があるのですが、紫のローヴに描かれているのですね。女神ヘカテーと同一視されますが、ヘカテーを司る花はトリカブト。

運命の三女神 モイラ(モイライ)

ラケシス、クロートー、アトロポスの3人はホーラたちのあとに生まれた三姉妹。ホーラたちが季節や時の香しさを伝えるなら、この3姉妹は運命を割り当てそしてその運命の糸を断ち切ってしまう役目をつかさどります。

運命の女神が掲載されています。
ジョバンニ・ボッカッチョ, Giovanni Boccaccio

さてこのベラドンナもプワゾン(毒)を持つお花。

学名はアトローパ・ベラドンナ(Atropa belladonna)は、この運命の女神モライのアトロポス(Atropos)から名をとりました。

変えられない運命という意味で、アトロポスは躊躇することなくその命の糸を断ち切ります。その手に持つ大鋏で。

タロットの月

アメリカに生まれてイギリスに渡ったアーサー・エドワード・ウェイト(1857-1942)のタロット(初版1910年)では「隠れた敵・幻想・欺瞞・失敗」を暗示しています。

そのキングのカップに注がれたプワゾンは、そうした象徴でしょうか。

月は「女神」よりも「悪女(あるいは魔女)」を象徴しているようです月は敗北を認めたかのように俯いています。クレオパトラの最期のようですね。

カエサル(シーザー)の暗殺後、クレオパトラとの子カエサリオンはアウグストゥスに暗殺されます。マルクス・ユニウス・ブルートゥスを裏切らせ、アントニウスを翻弄したクレオパトラ。

ナイルの蛇クレオパトラは、最期にアウグストゥスにエジプトの女王として屈服できず、コブラの牙で死んでいくのですが、実はクレオ・パトラは死の準備のために、毒薬を研究していたようです。

Atropa_belladonna_236

最期の死に顔も美しく・・・。このベラドンナのプワゾンは死に顔を醜くするのです。そしてコブラの毒を選んだわけです。

シェィクスピア

キングのカップ、世界を支配する三人とクレオパトラのようですね。

シェィクスピアも「ジュリアス・シーザー」、「アントニーとクレオパトラ」を書いています。 シェイクスピアはクレオパトラを「魔女」、「娼婦」としてだけではなく、「月の女神ヘカテー」と重ねたようにも思えます。

「クレオパトラの涙の一滴よ、それを手に入れることは失ったすべてのものに匹敵する」とアントニー。

まるでシェイクスピアのこの台詞は、ウェイト版の「俯く月が雫を大地へと帰す」とその姿を描いたようです。

タロットの月の下には2匹の犬と未だ試練を断ち切れないザリガニが1匹・・・。

イギリスの詩人ロバート・グレーヴズの小説

1934年に出版された「この私、クラウディウス」(I, Claudius)は、伝承に基づきながらも物語として書かれたものです。「ヴェルサイユの薔薇」なんかもそうですよね。史実に基づきながら架空な人物、独自の解釈がなされています。

よくベラドンナの犠牲のリストに、クラウディウスの妻、アウグストゥスの妻が挙げられていますが、この小説の中のお話なんでしょう?

妻リウィアによって暗殺されるアウグストゥス、そしてカリグラ(カリギュラ)と小アグリッピナの祖父のアグリッパもリウィアによって殺されるストーリー。

でもアウグストゥス(ガイウス・ユリウス・カエサル)は、76歳で肺炎で亡くなっています。「ブルトゥス、おまえもか!」で有名なカエサル(シーザー)の息子がアウグストゥスですね。

権威欲はあったリウィアは、それでも貞淑で聡明な淑女といわれています。

小アグリッピナも犠牲者リストにあがっていますが、暗殺はされますが、史実ではベラドンナの犠牲者を送り出した人。この物語はアグリッピニッラとして、語り手クラウディウスの最後の妻として登場します。

ベラドンナと毒殺

あの皇帝ネロ(暴君ネロ)の母アグリッピナ(小アグリッピナ)が暗殺されたのは息子ネロが差し向けた近衛兵に「剣」で殺害されました。

この剣で暗殺された小アグリッピナも生前は暗殺者。

ネロの母アグリッピナは夫である皇帝クラウディウスを毒殺しています。料理の毒は効かず、即効性のある毒を染み込ませた羽。その毒がベラドンナといわれています。

それこそベラ・ドンナでネロに暗殺されたのは、ブリタンニクスではないでしょうか。ネロの義理の兄弟。皇帝クラウディウスの最初の皇妃メッサリナの息子。晩餐のときに毒殺されたのです。

ジャン・ラシーヌは「ブリタニキュス(ブリタンニクス)」という悲劇を書きました。

ちなみにシェイクスピアの「ハムレット」の父親は、ベラ・ドンナと同じナス科のヘンベーン(ヘボバ)による毒殺です。

「ロミオとジュリエット」、「ヘンリー6世」、「マクベス」はボルジア家で有名なマンドレークだという説がありますが。

それでは御伽噺、神話、花のファンタジーに加えて、聖書の物語も思い浮かべてしまう次の最初のイラスト。

097_3

胸には十字軍を象徴するようなギリシャ十字。ドレスの裾にある紋章、右はラテン十字、左はグルジア国旗の十字(Flag of Georgia?)にそっくりです。

サキシフラガ・ウルビウムまたはハルサメソウ(春雨草)といわれる花のロープに冠を被り、戴冠したばかりの女王?

従者らしき人物は、金の鞭といわれる背高泡立草の笏をわたそうとしているのでしょうか?

紋章とアトリビュート

このグルジアの国旗から単に女王を示すのではなく女帝を示すのかしらと思いました。中世のタルマ女王が想像されます。この時代はグルジア文化の黄金期。ショタ・ルスタヴェリは長編叙事詩「豹皮の騎士」をタマル女王に献詩しています。

そして手にもつ球体はタロットカードの「女帝」も持っています。

右上のイラストはアガサ・クリスティーも、作品に好んで使ったジギタリス。別名「狐の手袋」(フォックス・グローヴ)といいます。

狐の手袋

ゼウスの妻ヘラのサイコロが地上に落ち、ゼウスに拾ってくれるよう願うのですが、彼女の遊びを快く思わないゼウスはジギタリスの花に変えるのです。花言葉は不誠実。

ここに登場するのは誠実でなければならない関係の人物たち。兄弟、姉妹、従兄妹、叔母という三親等を象徴しているのでしょうか。

不誠実の花に彩られた血の絆の人々です。

針仕事

Home, Sweet Home' must surely have been written by a bachelor

「家、楽しい我が家」を書いたのは独身男に違いないと言ったのはバトラーです。

サミュエル・バトラー(Samuel Butler 1835-1902)からです。ウォルター・クレイン(1845- 1915)の生きていた時代と同じ頃の人。ダーウィンの進化論批判で有名です。

ちなみにヴォルテールが風刺詩「ヒューディブラス」に触れていたサミュエル・バトラーは15世紀の人。

ヴォルテールはこちら
記事 ヴォルテールの哲学辞典

イラストの女性はバチュラー(独身の男)の綻びたボタンをつけながら、針仕事にため息をついてぼんやり見上げている姿。

バトラーは独身男、学者という意味につかわれますが、このウォルター・クレインのイラストは「家、楽しい我が家」を書いたのは独身の女性に違いないと思っているのでは?

バチェラー (bachelor)は学士、独身の男性を意味します。そして若い騎士です。

Bachelor's button 「独身者のボタン」

ツタンカーメンの棺からでてきた「コーンフラワー(Cornflower)」のことなんですね。矢車菊です。先にリンクしたボッティチェリの「プリマヴェーラ」にこのお花の写真がでています。矢車状の花がとっても儚げで可憐な印象。

属名の「Centaurea」は、ギリシャ神話に出てくる半人半馬の怪物ケンタウルスから由来しています。ケンタウルス族の一人ケイローン(キロン)が、この花で傷を癒したと伝承されています。

独身者のボタンのいわれは蕾がボタンのかたちに見えるところと、ドイツでは独身者が襟元につける習慣のほか、求婚のときにも襟元につけるという説もあります。

解釈がつかないシングル・デイジー

雛菊が描かれているのは左下、そして芝生にちょっと顔をのぞかせてます。二人の紳士はカーネーションに似たお花を象徴しています。

雛菊の旧学名は「ベリス(Bellis)」です。木の精ベリデスに由来 します。またまた果樹と果実の神ウェルトゥムヌスはそのニンフ・ベリデスを抱きしめようと近寄るのです。ベリデスは天の助けによって雛菊(デイジー)の花の姿になりました。

この雛菊はイタリアの国花です。

National Geographic Magazine

カーネーションとデイジーと二人の男性から、ウォルター・クレインは何を紐解かせようと考えているのかな。

ナショナル・ギャラリー・マガジンのカーネーションのイラストと比べて・・・。ウォルター・クレインの描いた花はやっぱりカーネーション。

カーネーションはスペイン、モナコなどが国花にしています。

カーネーションの由来は皆さんご存知だと思いますが、キリストの磔刑に聖母マリアが流した涙から誕生したといいますね。

戴冠、謝肉祭などと由来には諸説がいっぱいあります。雛菊も聖母マリアの花とされ、涙から生まれたという説があります。知りませんでした。

同じ意味をもつ二つの花。ちょっとこじつけになりました。

ところで独身者のボタンをつける矢車菊とこの背景は同じです。彼女の見つめる先はここだったのでしょうか。

HORSE-TAIL,WOLFE'S CLAW,LADIES' LAGES, FRIAR'S-COWL ,BISHOP'S-WEED ,SNAPDRAGON ,Scotch THISTLE

左上は馬の尾と呼ばれているトクサ、そしてクラブ・モスはウルフの爪と呼ばれています。狼の姿で描かれていますね。

レディース・ラゲスの正体不明

Rides off with a LADIES' LAGES  レディースラゲスって何をさしてるんでしょう。

テキサスマドロナという木は女性の美脚(Ladies Legs)といわれています。ラン科のネジバナは女性の巻き毛(Ladies' tresses)。

レディース・ラゲスの葉はネジバナの葉に似ています。そしてイラストのなかでは女性の髪の部分に「レディースラゲス」とよばれているのを描いているんですね。

それでは次に。

修道士の僧帽 Friar's Cowl 

サトイモ科 ロード・アンド・レディスは19世紀の薬用植物だそうです。この「修道士の僧帽」もその仲間。

花というのでしょうか。低く頭をもたげた蛇に見えます。細い舌をシュルッとだしているんです。クレオパトラの白い肌に牙をかけたような・・・。ネットですぐに検索できます。

司教の草庭 BISHOP'S-WEED

ビショップ・ウィード(司教の草庭)はホワイトレースフラワー(毒芹疑 ドクゼリモドキ)です。日本読みは残念なかんじ。花言葉は「喜びを運ぶ」です。みなさんもよく見かけているホワイトレースフラワーですね。

恭しい、仰々しい司教のお花とは思えないくらい可憐です。

左下はスナップドラゴンの騎士。英名と和名はホワイトレースフラワーと同じくらいかけ離れています。スナップドラゴンの和名は「金魚草」です。野生のアザミ「スコッチ・シスル」です。

野生の薊 Scotch THISTLE

The SNAPDRAGON opened his jaw,
But, at sight of Scotch THISTLE, turned pale

13世紀の時代にスコットランドとデンマークの戦争で、城壁に忍び込み思わず声をあげたスコットランドの兵士。

この「顎をあけた竜の頭(スナップドラゴン)」ことデンマークの斥候は、野生のアザミの棘にさされたため。スコットランドの兵士は一面のアザミに攻めることができずスコットランドが勝利を得たのです。そしてアザミはスコットランドの国花になりました。

最後のイラストがスナップドラゴンです。

JENNY-CREEPER ,JACOB'S LADDER,,SWEET WILLIAM,MARYGOLD, HEARTSEASE,DUTCH DAHLIAS,NARCISSU,DAFFA-DOWN-DILLY, EYEBRIGHT

左上からです。小さなジェニー・クリッパーが梯子をあがっているところ。それはジェイコブス・ラダー。聖書の創世記に出てくる「ヤコブの梯子」なんですね。

いま眠っているヤコブ。ヤコブが夢に見た地上から天まで届いている階段は、ヤコブの目が覚めると消えてしまうのでしょうか。

イラストは開花するまえのお花です。和名はハナシノブ。

右上は美女撫子に扮する貴公子が、マリーゴールドに扮する女性に三色菫を渡しています。その後ろに控える二人のオランダ人はダッチダリア。

名誉革命 Glorious Revolution

ローマ教会では1月1日は聖母マリアの祭日です。2月2日は聖母マリアお清めの日といわれる聖燭祭がおこなわれるそう。この日は冬の終わり、そして春の訪れを告げる日らしいのです。その日に必ず咲いているのがマリーゴールドらしいんですね。マリーとは聖母マリアの名だそうです。

その聖マリアの擬人像に「思考」という花言葉の三色菫をわたしているのは、スィーツ・ウィリアム。征服王ウィリアム1世、アキテーヌの聖ウィリアムからの由来の名です。花言葉は「義侠」です。

英国王室の祖とされるのが征服王ウィリアム1世ですが・・・。

ウォルター・クレインはこの花の名の由来から、ジェームズ2世の娘メアリー(Mary II of England)とその夫でオランダ統領のウィリアム3世(William III of Orange)をイングランド王位に即位させた「名誉革命」を描いているのではないでしょうか。

ダッチダリアに扮する二人のオランダ人がそう言っている気がします。ダリアの黄色は「栄華」の花言葉。ピンクは「豊かな愛情」です。ダリアの花言葉には「移り気」という言葉もあります。こちらもこの1枚に添えておきましょう。

ナルキッソス

みなさんご存知のナルキッソス。簡単に。

ひとつには、アプロディーテーの贈り物を侮辱したナルキッソはその復讐に、彼を愛する者を拒むように呪いをかけます。

もうひとつには、森の妖精エーコーが女神へーラーの怒りで、相手の言葉しか話すことができなくなり、ナルキッソはエーコーを拒むようになります。それをみていた復讐の女神ネメシスは彼を自分以外愛せないようにするのです。

そうして湖にうつる自分の姿に恋焦がれ死んでいくのですが、そこに咲いたのが水仙。ナルシスト(ナルシシズム)の語源にもなったナルキッソ。

でもたしかナルキッソスは白い水仙だったはず。ひとつだけ白い水仙が描かれていますね。

最後は、和名はヤクヨウコゴメグサでゴマノハグサ科の「アイブライト」です。

三美神 Three Graces の エウプロシュネー 

学名のEuphrasia(ユーフラシア)は神話の「三美神(Three Graces)」の一人である喜びの女神エウプロシュネー(euphrosyne)に由来しています。

三美神については前記事に詳しく記していますので、きょうは名の由来のあるエウプロシュネーについて。

カリスたち(カリテス)は美と優雅の女神です。アプロディーテーに仕える姿がもっとも有名ですね。

Eyebright

盲目の少女が香りをたよりに、山の菜を摘みにきました。ところが触れただけでも毒がまわるという毒草の甘い香りに誘われてしまったのです。

カリテスの一人エウプロシュネーはその姿をみて、彼女が毒草に触れる瞬間に、盲目を治す薬草に変えました。

その花を摘み香りをかいだ瞬間に、その少女の瞳は輝きだし、この世のすべてを見ることができるようになったといいます。

花言葉は喜び。

ところがウォルター・クレインが描くこのアイブライトと水仙。生き生きとした様子ではなさそう。

While EYEBRIGHT observes from her nook,
And wonders he could be so silly.

「アイブライトの陰から見ている彼女。彼はそれは愚かなことと思ったのです。」とナルキッソをみてたんですね。

簡単に「あの人、馬鹿ね」と見てたのでしょうか。

A LANCE FOR A LAD ,KING'S SPEAR,BUGLE,A LADIES MANTLE ,KNIGHT'S SPUR ,LADIES BOWER,LADIES SLIPPER,CLOWN'S WORT

「王の槍」に対峙する若者ランス。「蒲(ガマ)」ですね!この名前がでてくるまで3日3晩かかりました。なぜかあたまに浮かぶのは「木瓜(ボケ)」で、この言葉に似た、なんだったっけ・・・。

そして「茶色 棒のような」で検索しましたが、全然っ!3日目、「茶色、棒、きりたんぽのような」でヒット!「yopikoの、たなばた日記」さま、ありがとうございました。同じ感性で嬉しかったです。

花言葉は「救護」、「慈愛」です。

King Spear (王様の槍)

ユリ科のアスフォデルス・ルテア、アスフォデリネ・ルテア(Asphodeline lutea,Asphodelus luteus)というのが「王の槍」といわれている花です。星形で黄色い花の穂状花序のもの。

KING'S SPEAR 王の槍

たま~に「本来は白い」とされている記事をみますが、たぶん勘違いされてると思います。ルテアのつかないアスフォデルスは、この王の槍とされているアスフォデルス・ルテアと違うんですよ。ルテアというのが黄色の意味なんです。

画像をクリックするとアスフォデルス・ルテアの写真に変わります。

古代ギリシャでは「死の花」、のちに「天国の花(楽園の不死の花)」とされているアスフォデル(Asphodel)は「King Spear (王様の槍)」と違うようですね。

この若者ランスのもとでビューグル (bugle)は「らっぱ」という意味がありますが、まさにそのビューグルを手にしている兵士が描かれいてます。

右上が「王の槍」を手にした騎士。アーサー王なんでしょうか?

その足元にいるのはハーブを育てている方ならご存知の「レディースマントル」を羽織った女性です。

左下には瑠璃飛燕草(Delphinium, Consolida)。ここでは「夜の足跡、夜の燕」という別名。

その花の上にそっと止っているような妖精は、「レディー・バウアー」。イギリスの植物学者フレデリック・バウアー(Frederick Orpen Bower 1855-1948)からウォルター・クレインは名づけたのでしょうか。

Ladiesbower

このお花がレディーバウアーです。アイボリーがかった白で、真っ白な花がヴァージン・バウアー(Virgin's Bower)と呼ばれているようですね。

彼女の足元で一体何を探しているのでしょう。レディー・スリッパ、女性の靴を探しているようです。

Ladies_slipper

4枚目のイラストは、片一方の靴をはいていない「レディー・スリッパ」が登場します。そして足元には一人の人物とその膝元に片方の靴が。

「麦芽の悪ふざけ」がスリッパを隠しているんですね。

TOAD-FLAX is spun for BUTTER-AND-EGGS,LADIES' CUSHION sits THRIFT,RAGWORT,QUEEN OF THE MEADS is MEADOWSWEET,TURK'S HEAD

左上のイラスト、小さなヒキガエルがいますね。

TOAD-FLAX is spun for BUTTER-AND-EGGS

このヒキガエルの名のお花がトードフラックスです。細葉海蘭(リナリア・ウルガリス)というのが和名になります。女性は糸を紡いでいます。

ホソバウンランの擬人像がトードフラックスの糸を紡いでいる。ミルクとバター、そしてトードフラックスの二つのかわいい名があるホソバウンランです。

THRIFT アルメリア

次の右上は「女性のクッション」とよばれる「スタティック・アルメリア」です。その後ろには「沢菊」が・・・。

アルメリアに座る婦人に恵みを願いにきた「サワギク」ですが、婦人の「THRIFT(節約)」のために帽子は空のまま。

スリフトはアルメリアのことなんですよね。掛詞をふんだんに使っていますね。

3枚目のイラストは蜂蜜酒(ミード)の女王はメドウスィート(西洋夏雪草)の花冠をつけています。蜂蜜酒というのはkAFKAの悪ふざけです。

ミードのクィーンとタークス・ヘッド

最後は「トルコ人の頭」とよばれている原種系のユリ。トルコキキョウは「トルコ人のターバン」と言われてますよね。

この「タークス・ヘッド」(トルコ人)と「ミードのクィーン」は何かつながりの物語のようなんですよ。「ミードの女王の領域は広いけれどもタークス・ヘッドはプライドにターバンを巻く」とありました。

1869年のスエズ運河の開通とともにオスマン・トルコは勢力を伸ばし、北のイエメンを占領しています。イギリスは南なんですね。

このトルコの占領を示しているんでしょうか。

ターク・ヘッド こぼれ話

「タークス・ヘッド」は、ここばかりの登場ではありません。イギリスのロンドンにはシェイクスピアの研究で知られるサミュエル・ジョンソンは「クラブ向きの男」(Clubbable man)という異名で知られていますが、ジョシュア・レノルズがよびかけた文学クラブ(The Literary Club)の名前が「タークス・ヘッド(The Turk's Head)」。この創設メンバーでもあったんですね。

この「タークス・ヘッド」はウォルター・クレインの時代にも、そして現在でも残っています。

BETHLEHEM' STAR ,ST. JOHN'S-WORT,LOVE-IN-A-MIST

左上はスターオブベツレヘム(Star of Bethlehem)のお花。和名はオオアマナ。

東方三博士の礼拝
記事
東方三博士の礼拝(The Adoration of Magi)
記事
サンドロ・ボッティチェリ サンタ・マリア・ノヴェッラ教会 「東方三博士の礼拝」の謎

キリスト誕生の時輝いた星は東方の三賢者に知らせるもので、その星が地に落ちて花となったといわれるもの。

セント・ジョーンズ・ワートは西洋弟切草。

サロメ

セント・ジョーズ・ワートは洗礼者ヨハネのこと。サロメは踊りのご褒美に、邪恋のヨハネの首を求めました。

ギュスターヴ・モロー サロメ

その血は葉を染めます。そのときから不思議な力をもつ花になりました。ヨハネの生誕のときに黄色い花を咲かせます。

カインの末裔?

3枚目の左下は向日葵(Sunflower)です。すっかり日が落ちて、花は下を向いています。ほ労働者のような天使?たち。彼らも日がはやく落ちるほどに下を向き、そして日が沈む海へと向かっています。

聖書にでてくる種を撒く人、葡萄園のはなしなどを思い出させるような光景。

アダムとイヴが楽園を追放されて長男カインは農耕をはじめます。弟アベルを殺してしまったあとには、神の怒りで耕作しても収穫できない罰を与えられました。

過酷な労働を強いられているような「羽をもつ人々」は飛ぶ様子もなく、歩いています。楽園を追放されたアダムとイヴ、そしてカインの末裔なのかもしれません。わたしたちと同じように。

記事 ギュスターヴ・モロー 「人類の生」
記事  KAFKA ギュスターヴ・モロー

最後のイラスト。緑のなかの少女ともいわれるニゲラ・ダマスケナ。花言葉のひとつ「華奢」が「少女」そのものをあらわしているかもしれません。

LOVE-IN-A-MIST & DEVIL-IN-A-BUSH

別名は花が開くと「霧のなかの愛」、そしてもうひとつ、蕾は「茂みのなかの悪魔」。このお花は黒種草のことなんですね。ですから熟した実になる黒い種を悪魔としているのでしょう。

悪魔とされつつ、実は聖書にでてくるウイキョウ(茴香)はこの二ゲラとも言われているそうです。この黒い種こそクミンなんですね。

Loveinamist

「ラヴインナミスト(ニゲラ・ダマスケナ)」は1~3本くらいが私の鑑賞に耐えます。8月22日、9月30日の誕生花。花言葉は「未来」、「とまどい」、「ひそかな喜び」、そして「華奢」です。

イラストはラテン語の「niger(黒)」に由来したとおり、ほの暗い霧のなかにいるようです。なにかを恐れているのでしょうか。

この花の細い葉は「ウェヌス(ヴィーナス)の髪」といわれるほど繊細さ。

記事
ボッティチェリ 至福の花々 (サンドロ・ボッティチェッリ)

向日葵は夜になると眠ってしまいますが、この「ラヴインナミスト」は、夜も眠らない「緑の少女」かもしれません。

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キンポウゲ科 トラベラーズ・ジョイ。ウォルター・クレインとおなじイギリスの挿絵画家のシシリー・メアリー・バーカー (Cicely Mary Barker 1895 – 1973)が描いたトラベラーズジョイの妖精(The Traveller's Joy Fairy)よりも魅力的な大人の妖精。

冬には「おじいさんの髭」(Old-Man's-Beard)とよばれるワイルド・クレチマス。

トラベラーズ・ジョイは最後のご挨拶に登場。古代庭園の旅は終わったのです。

それでは最後のトラベラーズジョイと最初の妖精とを交えてお話しを進めます。

この妖精が最初に登場したシーンに
「Of old in Rosamond's Bower」とあります。

イングランド王ヘンリー2世の愛人フェアー・ロザモンド(Fair Rosamund)は、「美しきロザモンド」でラファエル前派の題材にもなっていますが、「娼婦のロージィ」とも呼ばれています。

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愛の蔓草(Love Vine)と呼ばれるトラベラーズジョイは、この離宮に住むロザモンドを想像させます。

離宮の内部は迷路で、細い絹糸はロザモンドの閨に続いているのです。愛の蔓草のように。

「旅人の喜び」とは、ヘンリー2世がロザモンドに会いにいく迷宮の旅の喜びを重ねているような気がしてきましたよ。

Clematis_vitalba

蜻蛉とおなじように悪魔のかがり針(Devil's Darning Needles)とも呼ばれ、悪魔の毛(Devil's Hair)と呼ばれる不思議な植物。

そしてまどろみ夢のなかで古代庭園を旅した画家は、その夢先案内人の注ぐソップスインワインを目覚めのハーブ・ティーとして飲んでいるのでしょうか。

お茶の時間、それは英国式幸福論の象徴ですね。

ソップスインワインってクローブピンク(Clove Pink)のことですが、林檎もあるんですよね。それがワインに浸したソップ(パンとか)のようで、中央がお花のかたちで、林檎の赤い色がそのまわりに染み込んでいます。

ソップってミルクやワイン、スープに浸して食べるものを指しますよね。ここでは「パン」がお花や林檎のイメージが湧きやすいと思います。

The_bower_garden

バウワー(bower)とは、中世の城中の「閨房(婦人の寝所).という意味なんですね。つまり寝所で交わされる睦言の女性がロザモンド。ロザモンズ・バウワーって「閨の中のロザモンド」のことだったんですね。

Of old in Rosamond's Bower,
With it's peacock hedges of yew,
One could never find the flower
Unless one was given the clue;
So take the key of the wicket,
Who would follow my fancy free,
By formal knot and clipt thicket,
And smooth greensward so fair to see

With it's peacock hedges of yew

イチイの生垣の孔雀って、よく英語の表現があるんですけど、英国庭園の伝統なんですね。

あの生垣の孔雀はアルフレッド・テニスン(1809-1892)の詩、「眠りについた赤い花びら」にでてくる「白い孔雀」でしょうか。

英国の庭園、ヨーロッパの庭園もそうですけれど、基本があるらしくってイチイの生垣、中庭、彫像、噴水、ハーブの庭、池にお魚や白鳥、そして孔雀ですね。孔雀は美と権力の象徴。

孔雀の羽根は古代ギリシアでは富と品格をあらわしていました。とくに女性の持ち物として。

英国は16世紀にはノット・ガーデン、迷路、トピアリーが流行しましたが、そうした象徴するものをウォルター・クレインはイラストだけではなく添えた言葉から想像させます。ギリシャ神話を思い出させる場面は、古代彫刻を示していたのかもしれませんね。

最初のシーン、鍵をもつ夢先案内人の妖精は迷路の鍵を持っていたのかも。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「閨房の庭」(The Bower Garden)は、今度にします!

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下井草書房さんでウォルター・クレインのオリジナルのお値段調べようと思ったらなかったですが、「スペンサーの妖精の女王」 全6巻で58万くらい。ルイス・キャロルよりちょっと購入しやすいと思う方々もいるかも。

1冊で10万以下のものがあるってことですもんね。

ウォルター・クレインはアーツ・アンド・クラフト運動に賛同し、ウィリアム・モリス、ラファエル前派とも交流がありました。

いま、大量に印刷されているウォルターの絵本を、天国でどんな気分で見ていることでしょう。職人気質の絵本画家さん!

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2010年4月 4日 (日)

4月の寓意 オウィディウス「祭暦」


ピーテル・パウル・ルーベンス ヴィーナスの饗宴 のウェネラリア祭


Venusfest

ヴィーナスの饗宴 ウィーン美術史美術館
(The Feast of Venus Verticordia 1630)
(Peter Paul Rubens)

こちらはルーベンス。ピロストラトス3世(フィロストラトス3世)のイマギネスの一遍にあるヴィーナス像を造ったニンフとクピドたちが林檎から愛を生み出す場面は、オウィディウスの「祭暦」のウェヌス・ウェルティコルディアを祀る場面を描いています。

大フィロストラストとも表記される古代の詩人ですが、イマギネス(1:6)によればウェヌスの神殿にある果樹園で、ルーベンスではクピド(天使)ですが、プットー(小童)が林檎をおもちゃにしながら愛の儀式をおこなっているんです。

Venusfest3

画像をクリックすると処女ではない人妻をウェヌスに見立て、娼婦を象徴する鏡、処女の再生を願う花嫁を象徴するお人形がみられます。

祭暦によるとウェヌス像を花嫁と人妻が洗い清められます。

不貞の浄化を求めにきた女性たちはミルトスの冠を被り沐浴をするのが倣いです。

ウェヌス像を洗い清めお香を焚く。ルーベンスが描いたのはウェヌスへの供儀の場面。

このウェネラリア祭りの正式な祀りの描写はありませんが、洗い清める女性、香を焚く女性、そして娼婦や花嫁を象徴する人々は、ロセッティの作品よりウェヌス・ウェルティコルディアの由来をふまえた作品のようです。


ウェヌスの添え名 ウェヌス・ウィクトリクス(ウェヌスの勝利)


フランチェスコ・デル・コッサ

Allegory_of_apriltriumph_of_venus_1

全体像はクリックで。

ボッティチェリがメディチ家ならフランチェスコ・デル・コッサ(Francesco del Cossa)は、エステ家が支配するフェラーラの画家。

このフレスコ画はスキファノイア宮殿の壁画のひとつ「4月の寓意 ヴィーナスの勝利」です。

これはオウィディウスの「祭暦」にはなく、ホメーロスの「イーリアス」にあるパリスの審判で、ヘスペリデスの林檎(黄金の林檎)を勝ち取ったウェヌス・ウィクトリクス(ウェヌスの勝利)の凱旋と三美神が描かれています。

三美神の下に集まる古楽器をももつ男女は性欲を表す象徴。左手には男女の語り合う姿。跪いている恋人たち。もしかするとフェラーラ公の人々でしょうか?

そして中央のヴィーナスの凱旋という3つの場面です。


ウェヌスの勝利と林檎をもつ三美神


Allegory_of_apriltriumph_of_venus_2

Allegory of April Triumph of Venus (detail)
アグライア(輝き)、エウフロシュネー(喜び)
タレイア(花の盛り)の三女神

フランチェスコ・デル・コッサ(1430ー1477)とフェラーラのエステ家の画家ジローラモ・ダ・カルピ(1501 - 1556)の中間に生まれているのがフィレンツェ、メディチ家のサンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)です。

ほぼコッサとボッテチェリは同じ世代で、コッサの晩年にはボッティチェリの名声が届いていたかもしれませんね。

ここに描かれたコッサの三美神はラファエロの「三美神(三人の美の女神)」(1501年)の模倣になったものなのでしょうか。


オウィディウス「祭暦」のウェネラリア祭
ウェヌス・ウェルティコルディア


Allegory_of_apriltriumph_of_venus_4

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ボッティチェリが晩年を迎えた頃、ラファエロは同じフィレンツェにやってきます。近い距離の二人ですね。

ウェネラリア祭は、ヴィーナス像を洗い清め、香をたき、花を飾り、捧げものをします。娼婦や不貞の女性、巫女たちが浄化するために祀られたようです。サルスベリの花輪を戴冠し、沐浴して浄化されるのです。

ところがこのお祭りには遊女をはじめ、男女の放蕩な情熱の祭りでもあったようです。ウェヌスの献水は、ウェヌスの初夜に飲まれたという水薬のことらしいです。芥子の花といっしょにミルクと蜂蜜からつくられたよう。

ウェヌスの初夜って、ヴィーナスことアプロディーテーは何度となく処女に戻る女神。それに結婚相手や子供を生んだ相手はたくさんいますから・・・。もしかするとこの水薬って処女になる神のお酒のことなんでしょうか?

「明日は恋せよ
恋を知らぬものも 知るものも
明日も恋せよ」
(ウェヌス宵祭の歌から)

前回の記事に書いた女神フォルトゥナ・ウィリリス(勇敢な幸運)は、ウェヌス・ウェルティコルディア(Venus Verticordia, 心を変えるウェヌス)を讃えてのウェネラリア祭に、いっしょに祀られます。

香を焚くのはこのフォルトゥナのためだともいわれています。

ところがこのウェヌス・ウェルティコルディアは、ウェヌス・ウィクトリクスのように絵画作品にされているものが少ないのです。

記事 サンドロ・ボッティチェリ フォルトゥナ・ウィリリス(フォーチュンの語源)

Raffaello Santi ラファエロの三美神

オウィディウスの「祭暦」にあるウェネラリア祭には3人のウェスタの巫女たちの不貞の償いをするためのものでもあるらしく、神助を求めるための女性たちの日だということです。

不貞の浄化ということでしょうか。


オウィディウス「祭暦」のウェネラリア祭 ウェスタの巫女


ウェスタの巫女は、竃の神ウェスタに仕える巫女のことですね。巫女は処女でなければなりません。もしも処女でなければ生き埋めによる死罪となるのです。

この巫女で名高いのはレア・シルウィア、トゥッキア(Tuccia)、タルペイア(Tarpeius)で、それぞれ純潔を損なったとされ、潔白を証明するなどの伝説などがあります。

このウェネラリア祭りのウェヌスに花飾りを用い、とくにミルトス(銀梅花)の冠を被り沐浴で身を清めます。

記事 ボッティチェリ La Primavera 「プリマヴェーラ(春)」  ダンテの神曲の楽園説

このウェヌスはヴィーナスと同一ですが、アプロディーテーと同一視されて本来のウェヌスの神話が残っていません。

とくにウェヌス・ゲネトリクス(Venus Genetrix)と名の添えているウェヌス像がアプロディーテーといっしょのようです。

ウェヌスには添え名が多くあり、それぞれの祭事も違います。

このオウィディウスの「祭暦」の4月のウェヌスは、ウェヌス・ウェルティコルディア(Venus Verticordia)になります。

ちなみに「祭暦」によると4月28日は女神フローラの祝祭フロラリア、5月2日には、ヒュアスの死と姉妹の哀悼、フロラリア祭、フロラとゼピュロスの結婚の祭事に続くようです。


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ  人の心を変えるヴィーナス


Rossetti_verticordia

ウェヌス・ウェルティコルディア 1868年
(心変わりを誘うヴィーナス)
Dante Gabriel Rossetti

19世紀のラファエル前派、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティはオウィディウスの「祭暦」の不貞に対して神助を求めるための女性たちのウェヌス・ウェルティコルディア(心を変えるウェヌス)を、「人の心を変えてしまうファム・ファタルなウェヌス」としてしまったんですね。

ロセッティのソネット

その女が差し出す林檎を前に
わずかに心に残る迷いに
引き返すことができるだろうか。
女は思いを一心に凝らし、
まだ恥らっているごとく
男の魂の奥深く注ぐその瞳。
女が呪文を囁く。
「甘美に身を委ねる人よ
その林檎を唇に押しあてて
つかの間の甘さに酔えば
たちまち矢が心を貫く
それは永遠にさまよい続ける運命となれ」

ロセッティはタイトルをオウィディウスの「祭暦」のウェネラリア祭りのウェヌスから用いて、「悪徳に誘惑される若者の寓話」のヴィーナス像を描いているようです。

Honeysuckle

描かれている吸葛の花言葉「愛の絆」

ロセッティの添えた言葉から、アダムとイヴを想像させます。「それは永遠にさまよい続ける運命となる」と結んでいますが、描いているパリスの審判で得た黄金の林檎は禁断の木の実で、その木の実を口にして、楽園追放となった運命をさしているのでしょうか。

そのウェヌスが神花のミルトスの代わりに黄金の蝶のティアラをつけています。蝶は「ヴァニタス(儚さ)」を寓意したもので、引き返すことができなかった男たちの魂を象徴しているようです。

Rossettivenusverticordia

人の心を変えるヴィーナス
(魔性のヴィーナス)
Dante Gabriel Rossetti

もう一枚のロセッティの「ウェヌス・ウェルティコルディア」は恋人の一人ファニー・コーンフォースをモデルにしたドローイング。色付きはポスターから。左がオリジナルです。

背後に銘文?かなにか書いてます。

こちらもパリスの審判によってヴィーナスに贈られた黄金の林檎を持っていますが、蝶は描かれていません。パリスの審判の林檎を持たせたのなら、なぜ「ウェヌス・ウィクトリクス(勝利のウェヌス)」としなかったのかな?

Danterossettivenusverticordia

パリスの審判の文脈ではこの勝利のウェヌスがでてくるからです。

ロセッティのウェヌス・ウェルティコルディアの背後はやはりウェヌスを象徴する薔薇。

ウェヌス・ウェルティコルディアは決してファム・ファタルの代名詞ではありません。

ロセッティはウェヌスの神話をすべて同一視して描いたようです。いくつかの添え名のウェヌスをロセッティの物語に変えて。

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2009年12月 1日 (火)

不思議の国のアリス 第6章

アニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz)
(c)www.style.com/Vogue
チェシャ猫 (The Cheshire Cat)


写真家アニー・リーボヴィッツのアリスはVogue2003年12月号の特集です。

チェシャ猫はご存知のとおり、「にやにや笑う」猫。ここではジャン=ポール・ゴルチェ(Jean-Paul Gaultier)がGAULTIER PARISのシルクの青いドレスを着たアリスとやりとりをしているところ。

たぶん、ゴルチェはディズニーのチェシャ猫をイメージしてボーダー柄を選んだようです。

このシーンは不思議の国のアリス第6章の「ブタとコショウ」の場面です。


Alice in_wonderland cheshire cat
(c)Relaxnews/Walt Disney Pictures


こちらはティム・バートンの「不思議の国のアリス」に登場するチェシャ猫。

ちょうど、ブタのおちびさんを下に降ろして、おちびさんが森に駆け込んでいった後の出会いです。

猫はアリスをみて「にんまり笑ったっきり」で、気立てはよさそうだけれど、爪はながーく伸びている。そしてむき出しの歯。ここは丁寧にお相手するのにこしたことはない、と考えます。

“Would you tell me, please, which way I ought to go from here?”

“ That depends a good deal on where you want to get to,”

「どうぞ、どの道を行けばよいのかを、わたくしに教えてくださいませ。」

「それはどこに行きたいか。そこが問題だ。」

(意訳:KAFKA シェークスピア風にしてみました。)


Chesire cat alice

1865初版
挿画はジョン・テニエル(Sir John Tenniel)


実は、sai とaleiは大学1年のときに原書がテキストだったらしいんですね。やたら詳しい。

私は当時バーネットの「秘密の花園」でした。

ちょっと、アリスのCHAPTER VI - Pig and Pepper を皆さんとのぞいて見ましょう。(意訳:KAFKA)

Adventures in Wonderland
アリス 第5章 イモムシの助言 兎穴さんの記事です。

For a minute or two she stood looking at the house, and wondering what to do next, when suddenly a footman in livery came running out of the wood--(she considered him to be a footman because he was in livery: otherwise, judging by his face only, she would have called him a fish)--and rapped loudly at the door with his knuckles.

アリスはちらりとお家を眺め、「さぁ、どうしたものかしら」と立ち止まる。

そこへ森からとびだしてきた、お仕着せ姿の一人の従僕。

(もしもお仕着せ姿でないのなら、魚と思ったことでしょう。)

その従僕は、ドアをやかましく叩いてる。


Pig and pepper

挿画 Bessie Pease Gutmann, 1907

It was opened by another footman in livery, with a round face, and large eyes like a frog; and both footmen, Alice noticed, had powdered hair that curled all over their heads. She felt very curious to know what it was all about, and crept a little way out of the wood to listen.

扉を開けたのは、その家のお仕着せ姿の従僕で、蛙のような大きな目!

二人はカールした鬘をかぶり、粉分をふりかけ、まるで17世紀の廷臣のよう。

アリスは木の陰から、こっそり聞き耳をたてました。

The Fish-Footman began by producing from under his arm a great letter, nearly as large as himself, and this he handed over to the other, saying, in a solemn tone, `For the Duchess. An invitation from the Queen to play croquet.' The Frog-Footman repeated, in the same solemn tone, only changing the order of the words a little, `From the Queen. An invitation for the Duchess to play croquet.'

魚のフィッシュ従僕は、厳粛に大きな大きな書状を差し出すと、うやうやしくもこう述べます。

「公爵夫人へ。女王陛下よりクロッケー試合の招待状でございます。」

蛙のケロッグ従僕は、

「女王陛下から。公爵夫人へクロッケー試合の招待状でございます。」

女王陛下と侯爵夫人を変えただけ。おなじように繰り返します。

Then they both bowed low, and their curls got entangled together.

二人は揃って深くお辞儀をしたとたん、鬘のカールが絡みあいました。


挿画 A.E. Jackson, 1915

Alice laughed so much at this, that she had to run back into the wood for fear of their hearing her; and when she next peeped out the Fish-Footman was gone, and the other was sitting on the ground near the door, staring stupidly up into the sky.

アリスは思わず吹き出しそうになり、笑い声が聞こえないよう森にあわてて駆け込みます。そうしてこっそり振り向くとフィッシュ従僕の姿は見えず、ケロッグ従僕がぼんやり空をみるように座り込んでいるのです。

Alice went timidly up to the door, and knocked.

アリスはおそるおそる扉に近づきノックをします。

`There's no sort of use in knocking,' said the Footman, `and that for two reasons. First, because I'm on the same side of the door as you are; secondly, because they're making such a noise inside, no one could possibly hear you.' And certainly there was a most extraordinary noise going on within--a constant howling and sneezing, and every now and then a great crash, as if a dish or kettle had been broken to pieces.

`Please, then,' said Alice, `how am I to get in?'

「ノックはご無用。」とケロッグ従僕。

「そのわけ二つ。ひとつは僕が扉の外にいること。ふたつに中じゃ大騒ぎ。とてもノックは聞こえやしない。」

たしかにひどい音がする。ひっきりなしに泣きわめくような声と、くしゃみ。その合間にお皿かやかんが砕け散る大きな音。

「それじゃぁね。」とアリス。「どうしたらなかに入れるのかしら。」

`There might be some sense in your knocking,' the Footman went on without attending to her, `if we had the door between us. For instance, if you were INSIDE, you might knock, and I could let you out, you know.' He was looking up into the sky all the time he was speaking, and this Alice thought decidedly uncivil. `But perhaps he can't help it,' she said to herself; `his eyes are so VERY nearly at the top of his head. But at any rate he might answer questions.--How am I to get in?' she repeated, aloud.

`I shall sit here,' the Footman remarked, `till tomorrow--'

「ノックに意味がないわけじゃないが。」

アリスの言うことには耳も貸さず、目もくれずに理屈を述べるケロッグ従僕。

「たとえば僕らの間にドアがある。君が中でノックをするなら、ここにいる僕は君を外に出すことができるのさ。」

アリスを無視して空を見ながら勝手に話す従僕。失礼千万ね、とアリスは憮然。

「でも、まぁ空しかみえないわけね。あんな頭のてっぺんに目があるんだもの。」とひとりごと。

でも聞きたいことには答えてほしいところ。

「どうしたらなかに入れるのかしら。」と声を張り上げるアリス。

「べつに。明日まで座っているだけさ。」


挿画 Gwynedd M. Hudson, 1922

At this moment the door of the house opened, and a large plate came skimming out, straight at the Footman's head: it just grazed his nose, and broke to pieces against one of the trees behind him.

`--or next day, maybe,' the Footman continued in the same tone, exactly as if nothing had happened.

`How am I to get in?' asked Alice again, in a louder tone.

`ARE you to get in at all?' said the Footman. `That's the first question, you know.'

まさにこの時、扉が開きました。

同時にお皿が従僕の頭をめがけ飛んできた!

鼻をかすっただけですんだけど、うしろの木は粉々。いえ、お皿が粉々。

「あさってまでにするさ。」と従僕。なにもおこらなかったように。

「だから、どうしたら中に入れるのかしら。」とアリスは喚く!

「君、入る権利があるわけ?」と従僕。

「まず、それを聞かないことにはね。」


A.E. Jackson, 1915

It was, no doubt: only Alice did not like to be told so. `It's really dreadful,' she muttered to herself, `the way all the creatures argue. It's enough to drive one crazy!'

The Footman seemed to think this a good opportunity for repeating his remark, with variations. `I shall sit here,' he said, `on and off, for days and days.'

`But what am I to do?' said Alice.

`Anything you like' said the Footman, and began whistling.

`Oh, there's no use in talking to him,' said Alice desperately: `he's perfectly idiotic!' And she opened the door and went in.

そうなんですけど、あからさまに聞かれたくない。

「本当にひどいじゃない。」とひとり言。

「ここの生き物たちの屁理屈には困ったものだわ。あたまが変になってくる。」

アリスが黙っているのを幸いに、従僕はまた言葉を変えて、繰り返す。

「わたしはここに座るだけ。時々休んで何日も。」

「私はどうするの?」とアリス。

「お好きなように。」と口笛まで吹く。

「この人と話すのは無駄ね。」と吐き捨てて、「まさにイカレタ奴だわ!」とドアをあけて、さっさと中にはいりました。


Sir John Tenniel - 1865

The door led right into a large kitchen, which was full of smoke from one end to the other: the Duchess was sitting on a three-legged stool in the middle, nursing a baby; the cook was leaning over the fire, stirring a large cauldron which seemed to be full of soup. 

`There's certainly too much pepper in that soup!' Alice said to herself, as well as she could for sneezing.

There was certainly too much of it in the air. Even the Duchess sneezed occasionally; and as for the baby, it was sneezing and howling alternately without a moment's pause. The only things in the kitchen that did not sneeze, were the cook, and a large cat which was sitting on the hearth and grinning from ear to ear

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Quentin_massys

うえのテニエルの公爵夫人のモデル
「醜い老婆(醜い公爵夫人)」1525-30
この肖像画は普通は反対向き→向きです。

モデルのマルガレーテ(マウルタッシュ)は最後に。

by クエンティン・マセイス. Quentin Massys


ドアをあけると右手には広い大きなキッチン。

あたりはもうもうと煙がたち込めている中、公爵夫人は子守をしながら三本脚の腰掛に座ってる。竈のまえで料理人は、スープの大鍋を魔女のようにかき回す。

「ペッパーの入れすぎだわ!」とくしゃみをこらえてひとり言。

あたりいちめんにペッパーの粉が舞っています。公爵夫人は時々くしゃみ、赤ちゃんはクシャミとオギャーの遠吠え中。

クシャミをしていないのは料理人と竈に寝そべる猫だけ。それが耳まで大きく裂けたような口で、にんまり笑ってる。

`Please would you tell me,' said Alice, a little timidly, for she was not quite sure whether it was good manners for her to speak first, `why your cat grins like that?

'It's a Cheshire cat,' said the Duchess, `and that's why.

Pig!'

She said the last word with such sudden violence that Alice quite jumped; but she saw in another moment that it was addressed to the baby, and not to her, so she took courage, and went on again:--

I didn't know that Cheshire cats always grinned; in fact, I didn't know that cats COULD grin.'

`They all can,' said the Duchess; `and most of 'em do.'

`I don't know of any that do,' Alice said very politely, feeling quite pleased to have got into a conversation.

`You don't know much,' said the Duchess; `and that's a fact.'

「お尋ねしたいんですけれど」とアリスはおっかなびっくりに声をかけました。アリスが先に声をかけることが失礼かどうか自信がなくって。

「あなたの猫はどうしてあんなふうに笑っているのですか?」

「チェシャ猫だからです。」と公爵夫人。

「おわかりになった?このブタ!」

このブタ?あんまりものすごい勢いで公爵夫人が言うもんですから、アリスはびっくり仰天で飛び上がりました。

ところが「このブタ!」はアリスではなく、赤ちゃんだということがわかって、気をとりなおして、また続けます。

「チェシャ猫がこんなふうに笑うなんて知りませんでした。猫が笑えるとも思わなかったものですから。」

「猫はたいてい笑えるものです。」

「そんなこと全然知りませんでしたわ。」

「まったく物事を知らないなんて」と侯爵夫人。「まったく小娘ですわね。」


Arthur Rackham, 1907

Alice did not at all like the tone of this remark, and thought it would be as well to introduce some other subject of conversation. While she was trying to fix on one, the cook took the cauldron of soup off the fire, and at once set to work throwing everything within her reach at the Duchess and the baby- -the fire-irons came first; then followed a shower of saucepans, plates, and dishes.

The Duchess took no notice of them even when they hit her; and the baby was howling so much already, that it was quite impossible to say whether the blows hurt it or not

`Oh, PLEASE mind what you're doing!' cried Alice, jumping up and down in an agony of terror. `Oh, there goes his PRECIOUS nose'; as an unusually large saucepan flew close by it, and very nearly carried it off.

`If everybody minded their own business,' the Duchess said in a hoarse growl, `the world would go round a deal faster than it does.' .

アリスはこの物言いに気が滅入り、話題を変えようと迷っているうちに・・・。なんと料理人が大鍋を火からおろしたとたん、子守をしている侯爵夫人にあらゆるものを投げつけ始めたのです。

暖炉用具、ひのしアイロン、ソースパンに、お皿やお鉢が雨霰のように降ってきます。

公爵夫人は何があたろうが気にもしない。

赤ちゃんは遠吠えのように泣いているのでお皿の雨にあたったのかもわかりません。

「ねぇ、お願い!気をつけて!」とアリスは飛び回りながら恐々叫びます。

「あっ!赤ちゃんの鼻がもげちゃうわ!」

それはそれは大きなソース鍋が、すんでのところで赤ちゃんの鼻を削ぐところ。

「他人のすることに口出しをしなければ」と公爵夫人はしゃがれた声で喧しく声をあげ、「この世はずっと速く回るでしょうに。」

`Which would NOT be an advantage,' said Alice, who felt very glad to get an opportunity of showing off a little of her knowledge. `Just think of what work it would make with the day and night! You see the earth takes twenty-four hours to turn round on its axis--'

`Talking of axes,' said the Duchess, `chop off her head!'

Alice glanced rather anxiously at the cook, to see if she meant to take the hint; but the cook was busily stirring the soup, and seemed not to be listening, so she went on again: `Twenty-four hours, I THINK; or is it twelve? I--'

`Oh, don't bother ME,' said the Duchess; `I never could abide figures!' And with that she began nursing her child again, singing a sort of lullaby to it as she did so, and giving it a violent shake at the end of every line:

Arthur Rackham

Arthur Rackham


「そんなこと得にもなりませんわ。」物知り顔で、ようやく知識をひけらかすチャンスとばかりに得意になって言いました。「考えてごらんなさい。昼と夜はどうなることやら。地球はアクシズ(axis 地軸)のまわりを24時間で1回転するんです。」

「アクシス(axes 斧)といったのね。」と公爵夫人。「この女の首を撥ねなさい!」

たとえば、①地軸を邦訳でスプーナリズムの手法で恥辱として、「恥辱といったわね、この女の首を・・・」ともありますね。②または「1回転するんです。まさか・・・とすると、「まさかりですって、この女の首を・・・」と邦訳されているものがあります。聞き間違いのひとつでこれは「フロイトすべり」に分類されるのでしょうか。わたしは、アクシズ、アクシスをそのまま使用しました。スプーナリズムの手法です。

これは大変とアリスは、料理人が首を撥ねにこないかと不安そうに振り返ると、スープをかき回すのに夢中になっているようでした。そこでアリスは「24時間でしたかしら。12時間だったかしら、私ったら・・・」

「もうお構いなく。」と公爵夫人。「私は数字に我慢できませぬ。」こういいながら子守をはじめました。子守唄をうたい一小節が終わるたびに赤ちゃんを乱暴に揺すぶります。

`Speak roughly to your little boy,
And beat him when he sneezes:
He only does it to annoy,
Because he knows it teases.'

CHORUS.

(In which the cook and the baby joined):--

`Wow! wow! wow!'

While the Duchess sang the second verse of the song, she kept tossing the baby violently up and down, and the poor little thing howled so, that Alice could hardly hear the words:--

`I speak severely to my boy,
I beat him when he sneezes;
For he can thoroughly enjoy
The pepper when he pleases!'

CHORUS.

`Wow! wow! wow!'

少年には喧しく語りかけ
くしゃみをしたらひっぱたけ
くしゃみをするのは嫌がらせ
からかうことを知っている

CHORUS コーラス(料理人と赤ちゃんの合唱)

`Wow! wow! wow!' ワゥワゥワゥ

(公爵夫人はあんまり赤ちゃんを乱暴に揺さぶるので、赤ちゃんはますます遠吠えのような泣き声をあげます。アリスは次の歌詞が聞き取れませんでした。)

わたしの子には厳しく語り
くしゃみをしたらひっぱたく
心底子供は楽しんで
胡椒もきっと好きになる

CHORUS.

`Wow! wow! wow!'  ワゥワゥワゥ

Salvador Dali Alice in Wonderland 1969
「Pig and Pepper (Tree)」
(C)Random House・Maecenas Press刊
ダリの不思議の国のアリスから 豚と胡椒

  • 実は他の章同様に、この詩もディビット・ベイツの子守唄(1849年)のパロディです。高橋康也氏、沢崎順之助氏が邦訳していますので引用させていただきます。全9節のうちの2節邦訳されてますが1節だけ紹介します。

    幼子にも
    やさしく語りかけよ
    心して 幼きものの
    愛を得よ
    おだやかな言葉で
    そっと教え諭せ
    長寿に恵まれるとは
    限らぬ子なのだから

`Here! you may nurse it a bit, if you like!' the Duchess said to Alice, flinging the baby at her as she spoke. `I must go and get ready to play croquet with the Queen,' and she hurried out of the room. The cook threw a frying-pan after her as she went out, but it just missed her.

Alice caught the baby with some difficulty, as it was a queer- shaped little creature, and held out its arms and legs in all directions, `just like a star-fish,' thought Alice. The poor little thing was snorting like a steam-engine when she caught it, and kept doubling itself up and straightening itself out again, so that altogether, for the first minute or two, it was as much as she could do to hold it
.

Sir John Tenniel

Sir John Tenniel - 1865


「この子をあやすの、よろしくて?」公爵夫人は赤ちゃんをボールのように投げてよこしました。「私は女王陛下とのクロッケト試合の仕度をしなければ。」と公爵夫人は急いで部屋を出て行きました。出なしに料理人は夫人の後ろにフライパンを投げつけましたが命中せず。

アリスは必死に赤ちゃんを受け止めました。奇妙な形をした生き物で、手足を四方八方に伸ばしていたからです。

「まさしくヒトデだわ。」とアリスは思いました。かわいそうに、受け止めたときは蒸気機関車のように鼻を鳴らし、からだを折り曲げたり伸ばしたりするので、抱いているのが精一杯。

As soon as she had made out the proper way of nursing it, (which was to twist it up into a sort of knot, and then keep tight hold of its right ear and left foot, so as to prevent its undoing itself,) she carried it out into the open air. `IF I don't take this child away with me,' thought Alice, `they're sure to kill it in a day or two: wouldn't it be murder to leave it behind?' She said the last words out loud, and the little thing grunted in reply (it had left off sneezing by this time). `Don't grunt,' said Alice; `that's not at all a proper way of expressing yourself.'

やっとあやせるようになり外へ連れ出します。

(身体をねじって結んで、右の耳と左の足をしっかりつかんでほどけないように。)

「わたしがこの子を連れ出さなかったら、1日、2日できっと殺されてしまうわ。赤ちゃんを置き去りにするなんて人殺しよ。」

最後の言葉を声に出すとブーブーと答えます。(くしゃみはとまっていました)「ブーブーなんて不平は言ってはダメ」とアリス。「自分の意見に、そんないいかたはよくないわ。」

※grunt の掛詞ではないかと。


Alice099

アニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz)
(c)www.style.com/Vogue
豚と胡椒(Pig & Pepper)
カール・ラガーフェルドとシャネルとショーメで着飾ったアリス


The baby grunted again, and Alice looked very anxiously into its face to see what was the matter with it. There could be no doubt that it had a VERY turn-up nose, much more like a snout than a real nose; also its eyes were getting extremely small for a baby: altogether Alice did not like the look of the thing at all. `But perhaps it was only sobbing,' she thought, and looked into its eyes again, to see if there were any tears.

赤ちゃんはまたブーブー。今度は心配でたまらなくなり、赤ちゃんを覗き込みました。

まぁ、どうして鼻の上が上を向いてるの。ブタのよう。どうしてお目目がちっちゃいの。

なんだかこんな赤ちゃんは好きにはなれないわ。

きっと泣いたせいかしら。と覗き込むと、いいえ涙は一滴も浮かんでいない。

No, there were no tears. `If you're going to turn into a pig, my dear,' said Alice, seriously, `I'll have nothing more to do with you. Mind now!'

The poor little thing sobbed again (or grunted, it was impossible to say which), and they went on for some while in silence.

「もしブタに変身するなら」とアリスは大真面目。「もう友達にもなれないわ。いいわね。」かわいそうな赤ちゃんはまたブーブー、いえ泣きじゃくります。そして二人は暫くの間黙ったまま歩きました。


A.E. Jackson, 1915

Alice was just beginning to think to herself, `Now, what am I to do with this creature when I get it home?' when it grunted again, so violently, that she looked down into its face in some alarm

アリスは考えました。「この子を連れてお家に帰ったらどうなるかしら。」

またブーブーと泣き出す赤ちゃん。.

This time there could be NO mistake about it: it was neither more nor less than a pig, and she felt that it would be quite absurd for her to carry it further.

今度こぞ間違いようがあるはずがありません。

まぎれもないブタそのもの。あやしてだっこしているのは馬鹿げているじゃないの。

So she set the little creature down, and felt quite relieved to see it trot away quietly into the wood. `If it had grown up,' she said to herself, `it would have made a dreadfully ugly child: but it makes rather a handsome pig, I think.'

そこでアリスはこのちっちゃな生き物をおろし、そのおちびちゃんが喜んで森のなかへ走っていくのをみて、とてもさっぱりした気分になりました。

「あの子が大きくなったらさぞ醜い子になったでしょうよ。でもブタにすれば素敵な子ね。」

And she began thinking over other children she knew, who might do very well as pigs, and was just saying to herself, `if one only knew the right way to change them--' when she was a little startled by seeing the Cheshire Cat sitting on a bough of a tree a few yards off.

そこで彼女は知っている子の顔を思い浮かべては、ブタとしてなら結構そこそこマシかなと思ったり。

「あの子達を変身させることさえできたなら・・・」

そのとき2、3ヤードはなれた木の枝に、チェシャ猫が座っている姿を見て、少し驚いたアリスでした。


挿画はジョン・テニエル(Sir John Tenniel)

The Cat only grinned when it saw Alice. It looked good- natured, she thought: still it had VERY long claws and a great many teeth, so she felt that it ought to be treated with respect.

`Cheshire Puss,' she began, rather timidly, as she did not at all know whether it would like the name: however, it only grinned a little wider. `Come, it's pleased so far,' thought Alice, and she went on.

猫はにんまり笑ってアリスを見ているだけ。気立ては良さそうだけれど、長い鉤爪に、大きな歯がずらり。これはなるべく礼儀正しく相手をしたほうが得かもしれない。

「チェシャ猫さま」とアリスはおずおずしながらきりだしました。この呼び方を気に入ってもらえたかは分かりませんが、チェシャ猫はさらにニヤリとしただけで。

`Would you tell me, please, which way I ought to go from here?'

「どうぞ、どの道を行けばよいのかを、わたくしに教えてくださいませ。」  

`That depends a good deal on where you want to get to,' said the Cat.

「それはどこに行きたいか。そこが問題だ。」 と猫。

`I don't much care where--' said Alice.

「どこでも構わないのです。」とアリス。

`Then it doesn't matter which way you go,' said the Cat

「それならどの道でも構わないさ。」と猫。.

`--so long as I get SOMEWHERE,' Alice added as an explanation.

「・・・・ どこかに行き着けるかなんですけれど。」とアリスは言い添えます。

`Oh, you're sure to do that,' said the Cat, `if you only walk long enough.'

「 行き着けるに決まっているさ。歩き続けていれば。」

Alice felt that this could not be denied, so she tried another question. `What sort of people live about here?'

当然至極の答えに、アリスは質問を変えました。「このあたりには、どんな人が住んでいるのでしょう?」

`In THAT direction,' the Cat said, waving its right paw round, `lives a Hatter: and in THAT direction,' waving the other paw, `lives a March Hare. Visit either you like: they're both mad.'

「あのあたりには、」と猫は右足をくるりと回し、「帽子屋が住んでいる。そしてむこうには」ともう一方の前足をくるりとさせ、「うかれ兎が住んでいる。どちらでも好きな方を訪ねればいい。どちらも気狂いさ。」


絵 作場知生 1988年
不思議の国のアリス 新樹社
P125から画像引用

`But I don't want to go among mad people,' Alice remarked.

「気狂いのところには行けやしない。」とアリス。

`Oh, you can't help that,' said the Cat: `we're all mad here. I'm mad. You're mad.'

「仕方がないのさ。このあたりは誰でも気狂いだ。 僕も気狂い、君も気狂い。」

`How do you know I'm mad?' said Alice

「どうして私が気狂いだってわかるわけ?」.

`You must be,' said the Cat, `or you wouldn't have come here.'

「気狂いでなきゃ、ここまで来るわけがない。」

Alice didn't think that proved it at all; however, she went on `And how do you know that you're mad?'

そんな当てにならないお話、とアリスは思いながら「あなたはどうして自分が気狂いだってわかったの?」

`To begin with,' said the Cat, `a dog's not mad. You grant that?'

「それじゃぁさ、犬は狂っている?いないさ。意義ある?」

`I suppose so,' said Alice.

「いいえ、そのとおり。」

`Well, then,' the Cat went on, `you see, a dog growls when it's angry, and wags its tail when it's pleased. Now I growl when I'm pleased, and wag my tail when I'm angry. Therefore I'm mad.'

「それではだ。」と猫は続けて、「知っての通り、犬は怒ると唸る、嬉しいと尾を振るのさ。僕は嬉しいときに唸り、怒ったときには尾を振り上げる。だから僕は狂っているのさ。」

`I call it purring, not growling,' said Alice.

「それは唸っているんじゃなくて、ゴロゴロ言っているのよ。」

`Call it what you like,' said the Cat. `Do you play croquet with the Queen to-day?'

「どちらでも好きなように。」と猫。「ところで君、女王陛下とクロッケーの試合はするのかい?」

`I should like it very much,' said Alice, `but I haven't been invited yet.'

「それはしたいわ。」とアリス。「でも招待されていないもの。」

`You'll see me there,' said the Cat, and vanished.

「そこで落ち合おう。」と猫はすぅーっと消えました。


(c)Relaxnews/Walt Disney Pictures

Alice was not much surprised at this, she was getting so used to queer things happening. While she was looking at the place where it had been, it suddenly appeared again.

アリスはまったく驚きもしない。もう摩訶不思議には慣れっこになっていましたから。ただそこを見つめているアリス。すると、また猫があらわれて。

`By-the-bye, what became of the baby?' said the Cat. `I'd nearly forgotten to ask.'

「ところで赤ん坊は?うっかり聞き忘れるところだった。」

`It turned into a pig,' Alice quietly said, just as if it had come back in a natural way.

「あの子ったら豚になったのよ。」とアリスは落ち着き払って答えます。

`I thought it would,' said the Cat, and vanished again.

「そうじゃないかと思ったよ。」そういって猫は再び消えたのです。

Alice waited a little, half expecting to see it again, but it did not appear, and after a minute or two she walked on in the direction in which the March Hare was said to live. `I've seen hatters before,' she said to herself; `the March Hare will be much the most interesting, and perhaps as this is May it won't be raving mad--at least not so mad as it was in March.' As she said this, she looked up, and there was the Cat again, sitting on a branch of a tree.

また猫が現れるかもしれないと、少しの間アリスは待っていましたが、それきりになったので、うかれた三月兎が住んでいるという方に歩き出しました。「気狂い帽子屋には会ったことはあるし、三月兎のほうが面白そう。」とアリスの独り言。

「いまは5月だもの。そうたいして狂っていないはず。兎がうかれるのは3月だものね。」とういいながら、ふと上をみると、またしてもあの猫が木の枝に座っています。


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アニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz)
(c)www.style.com/Vogue
チェシャ猫 (The Cheshire Cat)

`Did you say pig, or fig?' said the Cat.

「君、さっき言ったこと、ブタそれともフタ?」と猫

`I said pig,' replied Alice; `and I wish you wouldn't keep appearing and vanishing so suddenly: you make on quite giddy.'

「ブタだわ。」とアリス。「ねぇ、突然現れたり消えたりしないでちょうだいな。目がまわっちゃう。」

`All right,' said the Cat; and this time it vanished quite slowly, beginning with the end of the tail, and ending with the grin, which remained some time after the rest of it had gone.

「了解」と猫はいうと、こんどはゆっくりゆっくりと消えていきます。尻尾の先から消え始め、にやにや笑いでお終いです。

そのにんまりしたお口だけ、しばらく残っていたのです。

`Well! I've often seen a cat without a grin,' thought Alice; `but a grin without a cat! It's the most curious thing I ever say in my life!'

「わぉ、笑わない猫はよく見るけれど、猫なしの猫の笑いは、これまで一度も見たことない!」

She had not gone much farther before she came in sight of the house of the March Hare: she thought it must be the right house, because the chimneys were shaped like ears and the roof was thatched with fur. It was so large a house, that she did not like to go nearer till she had nibbled some more of the lefthand bit of mushroom, and raised herself to about two feet high: even then she walked up towards it rather timidly, saying to herself `Suppose it should be raving mad after all! I almost wish I'd gone to see the Hatter instead!'

そんなに長く歩くこともなく、三月兎のお家がみつかった。どうして三月兎の家だと思ったのでしょう。それは耳のような煙突に、毛皮の屋根のお家だったからなのです。あまりに大きなお家に戸惑いながら歩きます。歩きながらキノコの欠片を一口。いつの間にか2フィートの背丈になっている大きなアリスは、それでも恐る恐る歩きます。

「ものすごい気違いだったらどうしよう。気狂い帽子屋のほうがマシだったかな。」

第6章 おわり


Photo by Annie Leibovitz & Tim Burton 
「Alice in Wonderland」

記事
(タイトルは英語ですが日本のブログですぅ)

T・バートン 不思議の国のアリス

Alice in Wonderland

Alice in Wonderland The Mad Tea Party

Tim Burton Alice in Wonderland 2010

Alice in Wonderland Tweedledum and Tweedledee


余談 テニエルの公爵夫人のモデル、マセイス「醜い公爵夫人」


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Margaret, Countess of Tyrol

マセイスの「醜い公爵夫人」のモデル、マルガレーテ・マウルタッシュ(Margarete Maultasch)伯爵夫人(1318-1369)です。彼女は、ゲルツ家のマインハルト朝チロル(ティロル)の最後の伯爵夫人。

マウルタッシュというのが、彼女の通り名です。

Maultasch(マウルタッシュ)って売春婦や醜い女という意味なんです。教会のプロバガンダによってということがチラリと掲載されていましたが。

ヨハン・ハインリヒと離婚後、ルートヴィヒ5世(バイエルン公)と結婚。この政略結婚は宗教上の破門を渡される結果となります。

マウルタッシュというのは、そこから生まれたのではないでしょうか。

彼女には跡継ぎが亡くなったので、ハプスブルグ家のルドルフ4世が継ぎました。


追記アベラルド・モレル 不思議の国のアリス1998


20100216_1041148

アベラルド・モレル チェシャ猫 1998 不思議の国のアリス
(C)ABELARDO MORELL

SAI(XAI)がまた興味深いアリスをアップしました。写真家アベラルド・モレルの挿絵「不思議の国のアリス」(ルイス・キャロル)から何枚かアップ。

テニスンに倣ったアリスがか・か・かわいい。

アベラルド・モレル 不思議の国のアリス1998

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2009年10月 5日 (月)

ホ・オポノポノ

ハワイに伝わる癒しの秘法 みんなが幸せになるホ・オポノポノ 神聖なる知能が導く、心の平和のための苦悩の手放し方 ハワイに伝わる癒しの秘法 みんなが幸せになるホ・オポノポノ 神聖なる知能が導く、心の平和のための苦悩の手放し方

ホ・オポノポノ(Ho'oponopono)はもうみなさんご存知の呪文。でもKAFKAは今日はじめて知りました。

今日は99%癒されて、残りの1%はまだ浄化されていないのです。

1%の浄化をオーラソーマの K 先生のカウンセリングに託しました。教えてもらったのが「ありがとう。ごめんなさい。許してください。愛しています。」の4つの言葉。

ホ・オポノポノ奇蹟の原点 カフナの秘法 (超★スピ) ホ・オポノポノ奇蹟の原点 カフナの秘法 (超★スピ)

著者:マックス・F・ロング
販売元:徳間書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「頭の知恵と心の知恵が手をつなぎあっているのがいい。心にホ・オポノポノで問いかけてみるといいかも」と言われて寝る前に「4つの言葉」を唱えてみます。

本はヒューレン著のものを見せてもらいましたが、マックス・F・ロングという人の本もあるようです。

わたしの1%の浄化は99%の自努力が必要みたい。

arei が 「落日の寓意画」で、この原理の説明をしています。あぁ~、わたしのモチベーション低下やボケぶりもネタにしてます。

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2009年10月 4日 (日)

茨木 のり子 詩集

倚りかからず (ちくま文庫) レビューの何かが消えちゃいました・・・。

著者:茨木 のり子

倚りかからず (ちくま文庫)

人ってある時期には自信に溢れて人の話が耳に入らない。

なんて時代もありませんでしたか?いつも初心にもどるきっかけになる。

茨木のり子詩集 (現代詩文庫 第 1期20) もおすすめです。

買ったきっかけ:
3年前、大学に入学した息子の教科書を整理していたら、なんとなく「現代国語」を読んでみたくなりました。そこに茨木のり子さんの詩が。

感想:
読んでくださればきっとわかる。「震える弱いアンテナが」は私のバイブル。

おすすめポイント:
厳しいと感じていただけたら嬉しい。優しいと感じたらきっと苦いくて良い体験をしてきたのでしょう。人が変わるのは難しいけれどこの詩集が助けてくれると思います。

「汲む Y・Y に」

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい発音の正確な
素敵なひとと会いました
そのひとは私の背のびを
みすかしたようになにげない話にいいました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 
堕ちてゆくのを隠そうとしても 
隠せなくなった人を何人も見ました
私はどきんとしそして深く悟りました

大人になってどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる失語症 
なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな

年老いても咲きたての薔薇 
柔らかく外にむかってひらかれるこそ難しい

あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている 
きっと わたくしもかつての
あの人と同じくらいの年になりました
たちかえり今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

茨木のり子詩集 (現代詩文庫 第 1期20)

この詩は働くわたしのバイブルです。

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2007年6月 1日 (金)

ノスタルジックに NSP

わたしのボスの「ダブルMa」さん。(←本人、この意味わかるかなぁ)
NSP(ニュー・サディスティック・ピンク)のかけらを残したメールをくれました。

いま、ホテルで有線のB-5から、偶然NSPの曲がかかり・・・

それで、突然思い出したのが・・・

「ぼくの夏休み」 作詞:天野 滋 

遊園地  ローラースケート 
二人で行くはずだったのに
フォークコンサート 同伴喫茶 
二人で行くはずだったのに
バイトして お金をためて 
ふたりで遊ぶはずだったのに
そんな夢 見られただけで 
しあわせだったの か・し・ら

ギターを弾いて マークⅡを 
二人で歌うはずだったのに
野菜の入ってない カレーライス 
二人で食べるはずだったのに
腕を組んで べったりくっついて 
いちゃいちゃしながら だべったり
とうもろこしを半分にして 
向かい合って座ってかじったり
海に行って 砂浜で  
かけっこしたり泳いだり
そんな夢 見られただけで 
しあわせだったの か・し・ら    

ほかに、「あせ」、「さよなら」、「夕暮れ時はさびしそう」が、思い出せましたよぅ。「僕の夏休み」に登場する、同伴喫茶。いまないでしょう?若い子たちは知らないよねぇ。ふっふっ!

中学時代の愛蔵版だったFIRSTアルバム(LP)は、いまCDで聞けますよね。これ、ライヴだったんです。 

1. N.S.P.Cry 
2. あせ 
3. いい 
4. おひるねの季節 
5. ボーカルなんていらないよ 
6. ちょうちょ 
7. 新青春 
8. がんばれやせがえる 
9. 便所虫 
10. ぼくの夏休み 
11. 昨日からの逃げ道 
12. さようなら

通称ポプコン(ヤマハポピュラーコンテスト)出身。 谷山浩子さん、中島みゆきさん、小坂あきこさん、世良さん、チャゲ&飛鳥も、ポプコン出場してましたね。ねむのさと、つま恋が、会場だった~。ホント、ホント!青春のかけらたちぃ~!

追記:さっそくのトラバ、a-lei ありがと!マークⅡ~!

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2007年4月 1日 (日)

ポール・ゴーギャン 月と六ペンス

Go_kafkaポール・ゴーギャン。

これまたKAFKAには、あまり縁のない画家です。特にタヒチでの作品は、私の好みは、 ごくごく限られています。

画家のプロフィールは、作品とは切り離して鑑賞します。この作家がどこで生まれ、こんな出来事があってという類は、作品とは、なんら関係がないからです。

ただ、時代背景や、当時の音楽、文学などから、その芸術家たちの横顔が見えることがある。そういうのが好きですね。

作家モームの「月と六ペンス」は、ポール・ゴーギャンの伝記からインスピレーションを得て作品化したところは、皆様もご存知でしょう。

昭和55年(中学校3年生頃)の新潮文庫の「月と六ペンス」は、ページも色褪せて読みにくく、新しい文庫でも買おうかな~と思ったら、並んでない・・・。

しかたないので、色褪せたページを必死に読み直しました。(笑) 小説の最後のほうに、こんなくだりがありました。

「僕のタヒチ出発の時が来た。島の美しい習慣として、知り合った人すべてから、椰子の葉からつくった手篭、バンダバスの扇といった心づくしの餞別を送られた。」(引用:新潮文庫 月と六ペンス 中野好夫 訳 p317)

扇といえば、1902年の「団扇を持つ女」では、美少女トホタウアが羽毛の団扇を手にしていますが、「テハアマナの先祖たち」で、テハアマナが手にしているのは、葉か植物からつくられたような、頑丈な扇。

モームの「島の美しい習慣として」とあるように、扇を持つテハアマナの背後には、先祖信仰を思い起こさせるような装飾を描いています。

Go

ゴーギャンの中のゴーギャンといえば、この1枚かな?最初の作品も好きですね。

先のは、1892年のタヒチ版イヴの「かぐわしき大地(テ・ナヴェ・ナヴェ・フェヌア」をもとにして描かれた点描の水彩画です。タヒチには、蛇が存在しないそうなので、イヴの耳元には、赤い羽根の蜥蜴が描かれているのです。タヒチに蛇がいないとは!

そして禁断の果実のかわりに、孔雀の羽をモチーフにした想像上の花を手にしています。これは、ノア・ノアにも、左右反対で、モノクロと彩色されたものがありますが、水彩の点描画が美しい。

画像をクリックしますと大きくなりますので、どうぞご覧くださいな。

そしてゴーギャンの中のゴーギャンは、「ジャワ女アンナ」(1894年)です。お猿さんがいますねぇ。ほんと、日本では、街中で、住民に被害を与えたりしているニュースを拝見しますが、当時のタヒチでは、動物との共存があったのでしょうか。ゴーギャンの作品だけをみると、この当時のタヒチは、裸で動物と暮らしていたのかと思うくらいです。

そのタヒチを主題にした作品は、タヒチの文化や文明の誤解を招くことは、なかったのでしょうか?それにしても、タヒチの作品はプリミティブな表現で、無垢な自然観が伝わってきますね。

さて「月と六ペンス」ですが、作品の中盤にかかるところ。

『しかもその頃、僕が夢中になっていたのは、印象派画家であり、本当に欲しかったのは、シスレー、ドガといったところだった。とりわけマネには心酔していた。僕にとっては、彼の「オランピア」こそ近代画壇最高の作品であり、また「草上の朝餐」などにも、どんなに深く心を動かされたことか。』(引用:新潮文庫 月と六ペンス 中野好夫 訳 p220)

モームの「月と六ペンス」は、ほんとうに面白い。実際にゴーギャンは、マネの「オランピア 模写」をしています。そして当時のマネの心酔は、ゴーギャンだけではありません。アンリ・ファンタン=ラトゥールの集団肖像画にも、マネ礼賛の様子が描かれていますし、ポール・セザンヌも「草上の昼食」、「オランピア」を模写ではなく、対抗して描いています。

草上の昼食(月と六ペンスでは草上の朝餐)
※カテゴリー草上の昼食↓
Edouard Manet 草上の昼食
マネのオマージュ セザンヌ 草上の昼食
ポール・ゴーギャン オランピア
ポール・セザンヌ オランピア
アンリ・ファンタン=ラトゥール  
※作品は「バティニョールのアトリエ」
リンクはずれてました。直しました。

今回の画像、文章の引用と要約

ゴーギャン―私の中の野性  著者:フランソワーズ カシャン 解説 高階秀爾 販売元:創元社 から引用しております。P84、P190からの引用です。作品解説は本書を参考にしています。

月と六ペンス  著者:サマセット・モーム,中野 好夫,William Somerset Maugham 販売元:新潮社から引用しております。文中にて引用箇所を表示しています。

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